誰よりも人間らしいムサシ
小さな子供に向かって、「お父さんとお母さんとどちらが好きか」といった実にくだらない質問をして、子供を困らせている風景をよく見かける。わたしたち夫婦もごたぶん漏れず、ムサシに向かってつい同じ質問をついしてしまった。そんな時ムサシは少しもあわてず、即座にこう答えたのである。それは二人のうちどちらが僕を可愛がっているかと同じだと。
いいえて妙である。確かに期待した答えではないが、誰も傷つけたくないという人間らしさが心憎い。それに二度とそんなくだらない質問をするものかと、わたしたち人間に強烈な反省を促しているようでもあり、明らかに「技あり」の域を超えた名言であった。それからというもの、二人ともその種の愚問は一切口にしなくなった。
子供の場合は、少しとまどった後に「どっちも」と答えるのが精一杯でしょう。それでもかなりおりこうな答えだと褒められるのでしょうが、ムサシはそんなリップサービスは嫌いなのです。しかも、即座に答えるというのが凄いと思うのですが、彼には私たちのことはなにもかもお見通しだということなのでしょうか。