ムサシ流の思いやり
散歩の途中で公園を通ると、あまりのどが渇いていなくても水を飲みたいと訴えることはよくあった。しかし、家から見て西側にある中の島公園には噴水型の水のみ場しかなかったので、ムサシが水を飲みたいといった時は、両手で噴水の水を汲み取り、座って待っているムサシの口に運んで飲ませるというスタイルであった。
暖かい季節にはなんでもないことであるが、冬になるとさすが手がかじかんでとても辛かったのだが、当のムサシは一切気にせず、何杯もお変わりをするようになっていた。自立心が強く、私たちの手を煩わすことを極力控えていたムサシにしては、珍しい行動であった。それに、よく見ると美味しそうに飲むのは、最初の一二杯だけのようなのです。
最初は少し不思議に思ったのですが、実はちゃんと意味があったのです。そうした彼の我侭を私が喜ぶことを知っていたからに違いありません。そうなんです。私はムサシに思いっきり甘えて欲しかったのです。それがどうしてなのか自分でもよく解からないのですが、ムサシはそのことをよく心得ていて、わざと私に冷たい思いをさせていたのでした。