ムサシのいいぶん
ムサシが言うには、「お客様が来たからといって犬は必ず吠えると決めているわけではない。犬が嫌いな人でも、やましいところがなければ、どんなに吠えられても怯むことはないが、心に悪感情を抱いている場合は、たとえ犬好きでも顔色にその感情が表れる。これを見定めるために吠えているに過ぎないのだ。」というのである。
それでは聞くが、と重ねて次のように質問してみた。これまでに、心がやましい人はどれ位いたと思う?すると彼はこういうのである。「最初はなかなかその判断が難しいので、とりあえず吠えるのだが、話の内容を聞いているうちに、オヤジにとってもボクにとっても、安全であることを確認できればその必要はなくなるので、次回からは吠えないのだ。」
それ以来、ムサシをリードで縛りつけることをやめにし、少し面倒でもお客様には大丈夫ですからと声をかけることにしました。ムサシは、歓迎の挨拶をするだけで、あとは私のそばでじっと話を聞いているか、自分の席に戻り寝ころんでいるかです。よく考えると、私の説明にムサシが納得したのではなく、彼の説明に私が納得したというのが真相です。