その時ムサシは
わが家のムサシは、夕方の散歩を終えてからゆっくりと食事をとり、その後は茶の間や私の部屋でくつろぐのが習慣になっていました。その後眠くなると階段の下に移動し、二階を見上げるのです。そんな時私たちは、二人掛かりで彼を持ち上げるようにして階段を登らせるのがいつものスタイルでしたが、全く苦ではありませんでした。
ある晩のこと、ムサシが茶の間のソファーですっかり寝込んでしまったので、取りあえずそのままにしておこうということになり、私たちだけで二階に上がりました。夜もかなり更けたころ、ムサシの声で目を覚ましました。見るといつものように二階を見つめながら、私を呼んでいるではありませんか。慌てて階段を下り二階に連れて行きました。
それ程長い時間ではなかったと思うのですが、私たちにしてもこうしたことは滅多になかったので、“ごめんね”と言って謝ったのですが、そのことをとがめるということはありませんでした。その代わりというわけでもないのでしょうが、一目散に私の布団に向かい、ドスンという音がしたかと思うと、大いびきをかき始めたのです。