ムサシの寝息
ムサシは何時も寝ているように見えたが、大抵は目をつぶっているだけだったのかもしれない。その証拠に、何時私が帰ってきても必ず出迎えてくれるし、どんなに静かに行動してもすぐに悟られてしまう。これがまた不便なときもあったが、自分の分身のようでもあったので、何時しか誇らしい存在になっていった。
晩年になって足腰が弱ってもそうした行動は基本的に変らず、このころには感謝の気持ちに変っていた。そのとき、ふと思ったのですが、ムサシはいったいいつ本気で眠るのだろうということでした。家内に聞くと何時も眠っているよといいますが、どうも納得がいかないので直接ムサシにきいてみることにしました。
そのときの答えはこうでした。「お母さんが言うようにいつも眠っているのは確かだ。しかし、みんなが熟睡する時間にはボクも熟睡するように心掛けている」というのです。当たり前のことのようですが、かなり努力がいると言っているように感じられました。そういえば、私の布団に何回も出入りしていたのはそういう意味もあったのかもしれません。