裁ちそば「百全」
「裁ちそば」とは、南会津につたわる独特の製法で打ち上げるそばです。丸太のような太い麺棒一本で延ばし、延ばした生地を畳まずに、広げたままで何枚も重ねてそばに切る。この工程から「裁ちそば」と呼ばれています。百全さんの師匠は、南会津館岩の星キミヱさんという、地元ではそば打ち名人と呼ばれるおばあさんです。
「おめえは、おめえのそばを打て」と言われて、「百全」を開店したのが平成13年のことでした。「やっと裁ちそばらしくなった。師匠にそう言われるようになりました」と百全さん。「裁ちそば」は、近頃流行の「香り」と「甘み」が強調された品種とは一線を画す日本在来種の玄そばを、石臼で粗挽きした挽きぐるみの粉を使う。
薄緑を帯びた透明感のある十割そばは、細くてコシが強く、もっちりした食感です。のどごし、風味とも野種に溢れながら、極めて繊細で、ひとつの理想形を体現したそばです。「館岩ではそばつゆに岩魚の燻製でダシをとっていましたが、囲炉裏のなくなった今は、それも作れなくなりました」と百全さん。独学で試行錯誤して作り出したつゆは、一年間寝かせたカエシと、白しょうゆを使って仕上げたダシを、絶妙に合わせたものです。