雨降りが嫌いだったムサシ
若いころのムサシは、雨が降ろうと槍が降ろうと、とにかく散歩をかかすことはありませんでしたが、それでも雨降りは嫌いでした。散歩に出るようになったころは、既成の洋服も無かったので、手製のカッパを作って着せたりしましたが、体に馴染まないようだったので、結局ぬれた体を時々タオルで拭くという原始的な方法で通しました。
水にぬれること自体は、それほどいやではないはずなのですが、雨に濡れるのだけは好きではなかったようでした。あまり土砂降りの時などは、よそのお宅の軒先をちゃっかりお借りして、雨宿りをすることもしばしばありましたが、そのタイミングのとり方が堂にいっているには驚かされました。一定の要件を満たしていることが原則のようです。
しかし、さすがに晩年は、雨降りの散歩は控えたいと思うようになったらしく、時々休むこともありましたが、雨が止めば準備OKのサインを出し、私の対応をそれとなく窺っているようでした。しかし、彼は決して催促をすることはなく、静かにそのときが来るのを待っているだけのように見えましたが、実は私の心をすっかり読んでいたのです。