心配の種がまた一つ?その1
ムサシとの良好な関係が築かれたことに満足していたある日のこと、ヨーロッパ旅行の話が舞い込んできました。期間は半月ほどでオランダ、ドイツ、フランスを視察するというものでしたが、何しろ、ムサシと片時も離れる生活など考えられなかったので、辞退しようと思ったのですが、結果的に受けることにしました。
成田を出発した当初は多少緊張もあったせいか、まだホームシックという状態ではなかったのですが、いざ現地に降り立ってみると、とんでもないところに来てしまったという思いがした途端にムサシの顔が頭に浮かび、仕事どころではありませんでした。やっとの思いで一日を終えムサシに電話してみることにしました。
変わりようのないわが家の様子を聞くのもそこそこに、ムサシに換わってもらいました。家を出て3日目であったためか、彼は意外にも雄弁で一日も早く帰ってきてくれと訴えるのです。聞き分けないことをいうな、と腹を立てたふりをして電話を切りました。まるで借金取りを避けるような心境に自分を追い込んでいました。