ライフスタイルに組み込まれた散歩
正直言って最初の頃は、散歩に割かれる時間は痛かったが、仕事の都合で帰りが遅くなっても、ムサシは決して不満を漏らすことはなく、遅くなっても散歩ができれば上機嫌であった。この寛容さは私にはなかったのでとても勉強になった。そのお返しの意味で、私もどんなに帰りが遅くなっても、彼が望めば必ず散歩に出かけることにした。
疲れているときは少々きつかったが、やがてこれが一番の幸せであると思えるようになっていったから不思議である。それは多分、常に自分を待っていてくれる彼がいて、それに応えることができたという充実感なのでしょう。つまり、こんなことができるのは、私だけに与えられた特別な権利だと思えたのである。
そこには発想の転換などという非理屈は必要なかったし、こんな贅沢な時間を持てる自分が誇らしかったに過ぎないのだが、それでも、私にしてみればこれまでに経験したことのない不思議な感じで、最早自分のラスフスタイルの中にしっかり根付いていた。これがまた、彼との絆をより一層強靭なものにしたような気がしている。