寡黙なムサシが雄弁になる時
お客様もすっかり覚えてしまったので、最近では家の中ではめったに声を出すことがなくなっていた。大好きな散歩に出かけるときでも、嬉しさを体で表現するだけで声は出さないのだが、唯一声を出して喜びを全身で伝えることがある。それはどういうときかというと、自分のことを話の主題にしていることが伝わったときである。
特に、ムサシのために何かを買ってあげようとか、どこかへ連れて行こうという話題になったときは、真剣なまなざしで嬉しさをまず全身で表す。次にそれを行動に移す場面になると、喜びが頂点に達するのか立ち上がって大きく全身を揺さぶった後、大きな声をだしながら玄関に向かって歩き出すのです。そして、そそくさと車の指定席に乗り込みます。
家族の一員として同等に扱われることがこんなにも嬉しいことなのか、思いがけなく一緒に出かけられるのがそれほどまでに価値あることなのか。こうした光景を見るにつけ、日ごろの行動の罪深さを思い知らされる感じがします。普段は寡黙なムサシがこんなにも雄弁になり、感情を表現するのをただ見守るだけでいいのだろうか。