震災で消えた小さな命展
東日本大震災では多くの人々が犠牲になりましたが、動物たちの命も失いました。実際に犠牲になった動物の数は、環境省が出した「東日本大震災における被災動物対応記録集」によると、犠牲になった犬の数は一部の治自体からの報告を受けているだけで約3133頭、報告のなかった地域は不明とされています。この数字は、犠牲になった犬たちのごく一部にすぎません。また、日本では犬のような狂犬病予防法に基づく登録制度がないため、猫の犠牲については、すべての治自体で不明です。そのほか、うさぎ、ハムスター、鳥などの犠牲になった動物たちの数も不明です。そして、その後発生した福島第一原子力発電所の事故により、立ち入り禁止区域に取り残された家畜動物は、多くが餓死又は殺処分されました。その数約45万頭以上といわれています。このように、想像を絶する数の動物たちの命が犠牲になった。その中には、人間であれば確実に助かることができた命があったはずです。そうした動物たちは、いわば、人間を助けるために自ら命を差し出したと考えてもおかしくないでしょう。
こうした動物たちの在りし日を偲んで、「震災で消えた小さな命展」という企画・主催している人がいます。震災で犠牲になった飼い主さんから依頼を受けて、この企画に賛同した日本や海外の絵本作家・イラストレーター・画家たち約100名が、犠牲になった動物たちを描きました。猫の絵は、国内外で展覧会を開催し、展覧会終了後、飼い主さんにプレゼントしているという。今日までに、46会場で展覧会を開催し、約150枚の絵を飼い主さんに差し上げてきた。この展覧会を始めたきっかけは、まず、主催者が、私にも何かできることがないかと考えていたことです。それを知るには、自分の目で見て感じることが一番だと思い、2011年10月、東北の被災地を訪れました。その時、目に飛び込んできたものは、何もなくなってしまった街の景色でした。津波により、人間だけでなく、動物も昆虫も植物も...すべての命が一瞬にして消えてしまったことがわかった。多くの被災者の方々とであって話を聞く中、動物の家族を失い、つらい気持ちを抱えていることを伺いました。避難所に動物を連れて行くことは禁止されていたため、家の中で一番安全な場所に犬を残してきた。しかし、津波で家ごと流されてしまった。
避難所の中には、「うちは人間家族を失った人が多いのに、あなたは失ったのが動物でよかったじゃないか」といわれてひどく傷ついたという方もいらっしゃいました。動物が行方不明になった場合、行政には頼ることができないため、飼い主さんが自力で探すしかありません。泥水の中から家族だった動物たちを見つけて、その変わり果てた姿に、元気だったときの姿を思い出せなくなった...という方もいらっしゃいました。そうです。動物たちを決して見捨てたわけではなかったのです。こうしたみなさんの心の叫びにどうしたら応えることができるかを考えさせられました。主催者にも大切な動物の家族がいます。このような話を聞いて、心が引き裂かれそうになりました。そのとき、思いついたのが、この企画「震災で消えた小さな命展」だったいうわけです。そのほかにも、この企画展を催すことになった理由がもう一つあるそうです。それは、この企画展を通して、本来は助かったはずの動物たちが半数もいた事実を、多くの人に知ってもらい、二度とこんな悲しいことが起きないように考えてもらいたい。そんな願いが込められているとのことです。