現代の魔女狩りでは?
連日のように報道される高齢者ドライバーによる痛ましい自動車事故。わが家でもよそ事ではないので、心を痛めています。そんな矢先、医療ジャーナリストの市川衛氏のレポートに触れる機会がありました。まず目に飛び込んできたのが、「高齢ドライバーの事故は20代より少ない意外と知らないデータの真実」という見出しでした。その根拠となるデータ(平成17年から27年)は、「原付以上運転者(第一当事者=交通事故を起こした人)の年代別免許保有者10万人当たり交通事故件数の推移」で、これによると、各年代ともに緩やかに減少を続け、10年前のおよそ半分になっています。その内訳は、16歳から19歳:[約3000件→1800件]、20歳から29歳:[約1600件→900件]、30歳から39歳:「約1100件→600件」、40歳から49歳:[約800件→500件]、50歳から59歳:[約1000件→500件]、60歳から69歳:1000件→500件]、70歳から79歳:[1100件→700件]、80歳以上:[1300件→700件]ですから、一番事故率の高い年代は、16歳から19歳、次に多いのは、20歳から29歳、3番目に多いのが80歳以上ですが、30歳から79歳とほとんど差はありません。
とはいえ、この数値は、高齢者になるほどペーパードライバー(免許を持っているけれど運転しない人)の割合が多くなっていることの表われではないかと、市川氏は指摘しています。そこで念のため、年代別の[全件数]のデータも調べてみたところ、驚いたことに、20代・40代・30代が多く、80歳以上による交通事故が最も少ないことがわかった。「このデータからは、高齢者が若者に比べ特に交通事故を起こしやすいとは言えないのではないか? という気がします」とも言っています。今度は、さらに詳しく高齢者ドライバーの死亡事故についてみてみると、10万人当たりの死亡事故では、16歳から19歳が80歳以上を、わずかながら上回っていると同時に、「16歳から19歳と80歳以上の運転者は、死亡事故を起こしやすい」のではないか?ということがわかります。そこで再び、各年代ごとの交通死亡事故の「全件数=原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別死亡事故件数の推移」を見てみることにします。そうすると、全件数では、やはり20代や40代が多く、80歳以上が起こす死亡事故は少ないことがわかります。この年代で運転している人が、そもそも少ないのかもしれません。
いま高齢ドライバーが起こす死亡事故が急増していることが強調され、免許返納や認知機能検査などの重要性が指摘されています。確かにデータからも、件数としては少ないものの、80歳以上で死亡事故を起こす危険性か高いことが示されています。今後、高齢化の中でこの年代のドライバーの絶対数が増えるのは確実ですから、何らかの対策が急務なことは間違いありません。ただ心配なのは、高齢ドライバーへの風当たりが必要以上に強まることです。例えば、「高齢ドライバーにはねられ男性死亡」という報道では、「高齢ドライバー」とされているのは65歳以上です。65歳以上の人は「高齢者」とされるので、「高齢ドライバー」と呼ぶのは間違ってはいないかもしれません。しかし、実際の統計データは、60歳代のドライバーは20歳代より交通事故を起こしにくいことを示しています。65歳以上の人が起こした事故を「高齢」を付けて報じることで、誤ったイメージが広がってしまう危険があのではないでしょうか。データに基づいた正しい認識を持たなければ、高齢者の「誇り」を傷つけ、自立した生活者の生命線を奪う結果を招くおそれもあります。高齢者を本当に敬う気持ちがあるのであれば、自分がやがて「高齢者」と呼ばれるような年齢になった時、若い人にどのように接してほしいか考えてみてもらいたいものです。