東洋館
鹿落坂を登り、さらに右手の先、小さな杜のある前庭をぐるりと回ると、趣豊かな建物が見えてくる。玄関に迎えられて足を踏み入れれば、広い座敷に凛と飾られた季節の花。百余年の歴史を持つ老舗「東洋館」での特別な日のおもてなしは、アプローチから始まっていると感じさせられる。数寄屋造りの座敷は20畳はあると思われるゆったりとした空間で、広瀬川の清流と仙台の街を一望のもとに見下ろせる。
ここで6名様というから、何とも贅沢なことだ。「ゆったりした中で、お料理を愉しんでいただきたいと思っております」と話すのは、5代目の千田恵一さん。今年で創業111年という東洋館の主のルーツは仙台藩の武士。大きな時代の転換期を経て、この地で料理屋を開いたとのこと。趣のある空間と洗練されたしつらいから、伊達の粋が香り立つようである。
老舗の味を継承する佐藤武料理長は、料理人を目指して東洋館の門を叩き、一から学んだという。「伝統の形には一つひとつに意味があります。それを大切にしながらも、新しいものを取り入れて調理しています」と話す。3月といえば雛祭り。気品ある雛飾りとともに、季節の食材を用いて繊細に作り上げられる料理の数々。目で悦び、舌で楽しむひとときは、自然とおしゃべりも華やぎ、幸せな気分が満ちてくる。