丸森手すき和紙工房(その2)
平成11年から毎年、地元小学校の卒業証書に用いる和紙作りの体験学習を受け入れている。宍戸さんの工房では楮の原料作りも、子供たちに経験させている。冬休み中に原料を作り、始業式翌日に漉きに来てもらい、授業に支障をきたさないように心がけている。子供たちからの感謝のハガキや新聞が、工房の壁一面に貼られ、それを見る時のお二人はとても嬉しそう。「稲刈りが終わって楮の木を刈り始めて、すこしたつとよその人から、まだ漉かないの?と聞かれる」。
それほど和紙といえば紙漉き作業の印象が強いわけだが、「昔から、紙漉きは四十八の手がかかるといわれていて、簾桁で漉くのは本当に最後の作業」と、律子さんも強調する。大まかな流れは、原料の楮や三椏を秋から冬に刈り取り、切揃えて釜で蒸し、皮をはいで乾燥する。表皮をこすり落とした白皮を釜で茹で、不純物を取り除いて白皮を叩き、細い繊維にする。トロロアオイの根から作った粘質液(ねり)を、漉き船に繊維と一緒に入れ、ここでようやく流し漉きに入る。
脱水、乾燥してようやく完成する。根気がいる作業の連続である。宍戸さんの工房は、車一台がようやく通れる細い道を上がっていった先にあります。太い梁が組まれた昔ながらの農家の佇まいと、周囲の景色がいい。こじんまりとした山が目の前で、少し離れた場所からこんこんと湧き出す水を、パイプで工房まで引いている。澄んだ沢水も流れ、春になれば土手を福寿草の花が埋め尽くすそうです。きっと桃源郷のような光景なのでしょう。「子供らが大人になって、坂の上のぢいちゃんばあちゃんのとこで、紙を漉いたっけなあって思い出してくれれば、それがなによりだね」と、宍戸さん夫婦は優しく笑う。