丸森手すき和紙工房(その1)
宮城県丸森町の「丸森手すき和紙工房」は、山里の坂の上にあります。夏は養蚕、冬は紙漉きというサイクルでこの工房を守っている宍戸信成さんは、和紙職人の家の4代目です。55年間もの間、和紙を漉いてきました。400年続く丸森和紙は、宮城の浜通の方から来たといわれているそうで、この地を経て内陸部、仙台方面へと伝わっていった、そう聞かされてきたという。
代々農家で夏は養蚕、冬は紙漉きが定番だった。奥さんの律子さんが、ここに嫁いできた頃には、紙漉きの家が12軒あった。丸森では、5と9のつく日に褚市が立つほど、和紙づくりが一般的だったそうです。最盛期の頃は、宍戸さんは同じ紙漉きの仲間たちと競い合うようにして品質を高め、さまざまな新しい紙に挑戦していたのだという。「競争して腕を磨いたのが良かったんだな。そんな中でも、うちの紙が良いといって買いに来てくれる人がいるから、有難くてねえ」と目を細める。
ところが、ここにも東日本大震災の余波がありました。「うちのお客さんたちの家が、ほとんど津波で流されてしまって」注文や依頼が激減してしまいました。福島県の浜通から宮城県の松島周辺まで、主に海沿いの地域を中心にお客さんを広げて、他の和紙産地の領域に入り込まないよう注意してきました。宍戸さんの昔気質の思いがあったからで、それが裏目に出た形です。勤め人の息子さんも、少し前までは早めに退職して紙漉きをするといっていたが、そんな状況の変化もあって、あまり強くは勧めにくい気持ちでいるという。