オヤジも「一個ほしい」と言ってます
この前、お母ちゃんが、テレビドラマ「私の家政婦なぎささん」に登場する大森南朋さん演じる家政婦の「なぎささん」を一個買ってくれ! とオヤジに"ないものねだり"をしていましたが、今度はオヤジが、「アンサング・シンデレラ」の石原さとみさん演じる「葵みどり」さんを一個ほしいと言い出しました。するとお母ちゃん曰く。「どんなに願っても「なぎささん」は来ませんでした。ですから、仕方なく自分でなぎささんを演じています」と、あっさりうっちゃられてしまいました。その心は、なぎささんもみどりさんもテレビ画面の向こうにいる人で、来てくれるはずないのですから、お父さんも諦めて、自分で「みどりさん」をやりなさい、ということなのでしょう。お母ちゃんにそう言われたオヤジは、テレビの裏側を覗き込み、恨めしそうなそぶりをして見せました。若い人たちがこんなことを言えば、100%冗談と受け取れるのでしょうが、体の節々が痛み出してきたオヤジとお母ちゃんにとっては、かなり本音も入っているように聞こえて、ボクは少し複雑な思いがしました。でも、それはどうしてなのでしょうか。
というのは、ボクはこの家に来てから、家事はほとんど手伝ったことはなかったからです。それは、手伝いをするのがいやだったからではなく、お母ちゃんやオヤジがボクの面倒を見てくれるのがとても楽しそうだったから、それにこたえて甘えるのがもっぱらボクの仕事であると思っていたからです。その時の二人は、どんなに体がつらい時でも、決してそれを迷惑だなどというそぶりは一切見せませんでした。そして、その姿勢は今も全く変わっていません。でも、今回の二人の会話を聞いていて、これまでとは違って何か切実な思いが込められているのでは? と感じたのです。もしも、働きづくめの二人が、疲れを覚えたのであれば、ボクに何ができるか考えてみたいと思い二人に聞いてみると、二人ともただ笑っているだけで何も答えてくれません。少し不満そうな顔をしているボクを見て、オヤジが一言いいました。「今までのままでいいよ。 ね母さん!」。お母ちゃんも笑いながら頷いていました。ボクはホッとして、改めて二人の顔を見ると、本当はあまり高望みをすることを好まない、いつもの二人の顔がそこにありました。
とんだ早トジリであることがわかって平静を取り戻したボクに、オヤジが深刻な顔をして、「そうだ!ムサシに相談があったのだ」と言いました。ボクはいま、オヤジの心の中に棲んでいるので、改めて相談されるまでもなく、その内容はすべて知っているつもりです。それは、あるクライアントから持ち込まれた、かなり難しい問題のはず。内容を聞いてみると案の定その話でした。それをなぜ今までボクに相談しなかったかといえば、オヤジにはすでに答えが出ていたからです。つまり、本質的な問題解決には、これしかないと確信していながら、クライアントの揺れる心を納めることができないからでした。オヤジのやり方は、どんなに優れていると思われる提案でも、決して相手に押し付けることはせず、必ず、クライアント本人が決断を下すべきだと考えているからです。これはオヤジのポリシーで、コンサルタントの仕事は提案することで、自分がベストだと思っても、クライアントが納得して決定しなければ、価値がないという思考です。つまり、今回の相談は、本来ボクに振るべき案件ではないと考えていたはずです。それがなぜ今?