若草寿司
東日本大震災から8年半が経過した2019年10月1日、被災したことでさまざまな制約のある仮設蔵での酒造りを余儀なくされていた佐々木酒造が閖上の地に戻り、震災前とほぼ同じ場所で蔵開きを迎えた。間違いなく、閖上の復興の一つ。蔵人たちの復興にかける思いの結晶が、佐々木酒造が醸す酒には清々しさとそれを下支えする力強さが感じられる。例えば、名取市産のひとめぼれとせりの産地として知られる同市下余田のせり田の清冽な水を使った純米酒「閖(ゆり)」。
この酒はみずみずしく、飲んでいるうちに体の内側に清新の気が満ちてくる。「独特の甘みと歯ごたえのある閖上の赤貝を美味しくいただけるお酒です。閖上で水揚げされるヒラメやカレイ、シラスにもよく合いますよ」とは、専務取締役の佐々木洋さん。そして、古くからの看板銘柄である純米酒「宝船 浪の音」は、刺身はもちろん、煮付けにもぴったりで、冬の凍えた体をほっこり温めてくれる。そんな佐々木酒造店の酒を、閖上をおつずれる人の多くが買い求めていくという。
酒蔵の向かい側にある「かわまちてらす閖上」の一角、「若草寿司」で伺うと、「閖上の魚介類と一緒に地物のお酒を味わいたいという要望が多いですね。そんなときにお勧めするのが「閖」なんです」との答えが返ってきた。「仮説蔵ではできなかった新たな挑戦をしていきたい」と意気込む佐々木さん。直営の店舗を併設し、イベントや企画も構想している。12月3日には、丸森のブランド米「いざ初陣」を原料にした純米吟醸「ライスワイン『LUCE(ルーチェ)』」の販売も始まった。復活なった佐々木酒造店がどんな日本酒を世に問うていくか目が離せない。