日本酒bar旅籠
ここ数年の日本酒の進化は目覚ましい。加美町南町にある山和酒造店の伊藤大祐社長は語る。「日本酒はどんな料理にも合います。その『進化版』を造りたい。料理とお互いに引き立て合い、場が楽しくなるお酒。強烈なインパクトを求めるのではなく、飲み飽きないお酒を造りたいと思っています」。高い酒質を保ちながら、さらなる進化を遂げる。いくら米どころであり、船形山の豊かな水に恵まれた土地であっても、それは簡単ではない。米の出来は毎年違うし、気象条件も異なる。鍵を握るのは「対応力」だと伊藤さんが教えてくれた。
手触りや目視といった五感をフルに働かせ、機械が示すデータを駆使しつつ、毎年の経験を蓄積する。こうしてその年の米の状態を見ながら、目指す酒質に至るルートを見出すのだ。もう一つ大切なことがあるという。一人ひとりの蔵人が、目標とする酒質を共有し、そのイメージを自らの中にしっかり持っていること。「人の和が醸し出す雰囲気は酒質に出ます。良いお酒を造るには、一人ひとりの温度差を極力小さくし、プロ意識やお互いが持つ厳しさを生かせるようにするのが肝心です」。
こうして醸される山和酒造店の酒。定禅寺通沿いのビルで全国各地の銘酒が味わえる「日本酒bar旅籠」を経営する店主で唎酒師の青屋宰(つかさ)さんは「どんな食事にも合わせられる『万能系』のお酒です」と評する。「山和 純米吟醸 山田錦 pulito(ブリート)」を示してこう語る。「ブリートはきれいな、洗練されたという意味のイタリア語。スマートで、蔵人のストイックさが表れたお酒と言えます」。新酒の季節。伊藤さんは言ってほほ笑んだ。「今年の新酒の微妙な変化(進化)に気づいてもらえればうれしいですね」。