中村哲医師の偉業
アフガニスタンで銃撃されて亡くなったペシャワール会(福岡市)の現地代表、中村哲医師(73歳)が医師から灌漑(かんがい)・農業支援へと活動を広げたのは、アフガンを大干ばつが襲い、農地が砂漠化するのを目の当たりにしたからだ。病気の背景には食糧不足と栄養失調があると考えて「100の診療所より、1本の用水路を」と2003年からアフガン東部で用水路の建設に着手した。これまで27㎞が開通。用水路は福岡市の面積のほぼ半分に当たる16500haを潤し、砂漠に緑地を回復させ、農民65万人の暮らしを支えている。このような偉業を成し遂げ、これからも支援活動を続けていくと力強く語っていたNGO「ペシャワール会」現地代表の中村哲医師が昨年12月4日、突然の銃弾に倒れた。現地アフガニスタンでも高く評価されていただけに、交流があった人たちは「なぜ」と言葉を失った。福岡市のペシャワール会事務局で4日、記者会見を行った広報担当理事の福元満治さん(71歳)は悲痛な面持ちで「正直、信じられない。無念でしかない。この事業は中村哲という人物でなければできなかった」と語った。
現地の住民のみなさんは、中村さんに「畏敬(いけい)念を持っていたという。「30年以上やって現地の信頼が一番のセキュリティーだった。事件はアフガンのことを思うとありえないこと」。今後の活動については、「あくまで続けるのが中村医師の遺志であると思っている」としながらも、「事業を拡大していくのはなかなか難しいのではないか」とも話した。中村さんは「自分は好きで勝手なことをしているので、家族には迷惑をかけたくない」と周囲に話していたという。奥様の尚子さんは報道陣の取材に「いつも家にいてほしかったが、本人はこの仕事にかけていた。いつもサラッと帰ってきては、またサラッと出かけていく感じでした。こういうことはいつかあるとは思っていたが、本当に悲しいばかりです」と話した。人とは愚かな者で、まったく私利私欲がなく、みんなのために身を粉にして働き、世界平和のために貢献してきた中村先生に銃口を向けるとは! 襲撃に加わったものの正義とは何だったのでしょうか? 例えどんな正義が隠されていたとしても、武力で取り戻せるなどということはあり得ない。
ボクのオヤジは、昔、ある倫理学専門の先生に「人は正しいことしようと思ったその志だけが本当の正義である」と教わったそうだ。その意味するところは「正しいと思うこと」は間違いなく正しいのだが、それをいざ行動に移すとなると、必ず誰かが反対する。つまり、正義とは、その視座(見る角度:立場)によって、定義が異なるということらしい。今回の中村先生の襲撃事件を聞いて、何故かこの言葉を思い出したという。それにしても、中村先生の支援活動に疑義を唱える人が存在するとは考えにくい。ましてや、中村先生のご遺族や近親者の方たちには、到底理解できないことでしょう。下世話な言葉で恐縮ですが、「泥棒にも三分の理屈あり」というたぐいの言葉ではとても説明できない。「喉の渇きや空腹はクスリではなおせない。きれいな水があれば、食物を育てることができる」という確固たる信念があった。だから27㎞にも及ぶ水路を30年もの歳月をかけて造り上げたのだ。その人の命を奪っていい大義などあるはずがない。中村先生の偉業に敬意を表し、あらためてご冥福をお祈り申し上げます。