日本刀の源流(その6)
様々な材質の鉄を使いこなすには、鉄をたたいた時にしっかりとくっつく温度を見極めなければならない。信房さんは、それを炎の色や鉄が赤くなる様子を見て判断しているという。炎の色といっても素人目には全く見分けがつきません。どんなに目を凝らしてみても、炎は赤々と燃え盛っているばかりです。「非常に微妙な変化ですから。何度の時は何色か、と問われても言葉では表現できません」。
こんなエピソードがある。ある時、日本刀製作の調査のため信房さんのもとを訪れた研究者が、最新の温度測定器で火床の中の鉄の温度を測った。信房さんが炎や鉄の色を見て「いま1100度だ」「1200度になった」というと、測定器も同じ温度を表示していた。研究者たちは一様に驚いていたという。こうして、柔らかい鉄を鍛えた心鉄(しんがね)、硬い鉄を鍛えた皮鉄(かわがね)、刃の部分になる刃鉄(はがね)を別々に作り、それを組み合わせ、たたいてくっつけていく。
この時、柔軟性のある心鉄を硬い皮鉄で包み込むことで、折れたり曲がったりしないようになる。複雑な工程を経て、無表情だった鉄が美しさや力強さを持った刀に生まれ変わっていく。信房さんが「刀に命を吹き込む」と表現するのが最終盤の「焼き入れ」です。炭や粘土を混ぜた「焼き刀土」を塗って乾燥させた刀身を火床で熱し、水槽に入れて急速に冷やす。すると、刃の部分の組織が硬く変化して切れ味を増し、刃文が生まれる。