何事にも慎重なムサシ
ムサシをわが家に迎え入れて以来、私たちはムサシが喜ぶことをしたいと思い、それなりに工夫してきたつもりです。しかし、ムサシは私たちの提案をすぐには受け入れず、少しずつ時間をかけて馴染もうと努力しているようでした。その姿を見て、私の若いころを思い出し、一人で苦笑いしたものでした。それは、昔の自分にそっくりだと思ったからなのでしょう。
といのは、私は人から与えられたものには馴染めず、自前で作るかあるいは、自分好みのバージョンに作り替えなければ気が済まない性格でした(今でもそうです)。例えば、親や友人が良かれと思って作ってくれたモノや環境には馴染めない、いわゆる「あまのじゃく」な子供でしたから、ムサシのしぐさが、自分の若いころにそっくりだと思ったのでした。
しかし、それは私の独りよがりでした。ムサシは、新しい環境を受け入れ、早く家族の生活習慣に馴染もうと一生懸命でしたが、それだけに、自分が納得するまでじっくり検討するという慎重派だっただけで、子供の頃の私のように反抗的でかわいげない悪童とは似て非なるものだったのでした。その証拠に、私たちの提案を最終的には全て受け入れ、自分のライフスタイルに同化させていたからです。