蔵王・秋保・松島の紅葉
蔵王は、火山活動を繰り返すことによって形成された複合火山群。火口湖である御釜の神秘的な姿や、火山岩と火山礫に覆われた荒涼とした景色が、大自然への畏敬の念を抱かせる。しかし秋は一変して、山を覆うかのような錦の絨毯が、訪れる人々を歓迎してくれる。別天地となった山々を彩る鮮やかでダイナミックな紅葉は、この季節ならではの絶景を展開する。山で生まれた水は、ときに滝となり、荘厳に流れ落ちる。蔵王の御釜から流れてる水が、奇怪な岩肌をつたうように流れる不帰の滝、日本の滝百選に選ばれている三階の滝などの名瀑と秋色の樹々のコントラストも見事だ。山の水は、川にも、湖にもなり、人々が暮らす麓まで潤していく。蔵王の豊富な水は、いたるところで紅葉との協演を見せてくれる。
秋保は、自然を身近に体感できる里だ。秋は、夏の勢いある緑とはまた違った、どこか懐かしく人の温もりが似合う景色になる。例年、名取川の川岸は、爽やかな風を感じながら紅葉狩りをする人々や、芋煮会を楽しむ人々の弾んだ声が飛び交い、その声を包むように、とうとうと流れる川の音が響く。奇勝・磊々峡も名取川の一部。谷底から聞こえる躍動感あふれる水温につられ、遊歩道を下へ下へと下りていくと、紅葉に彩られた巨岩や奇岩が入り組むなかを、緩急自在に流れゆく水の姿を見ることができる。名取川の上流方面へ足を運ぶと、轟わたる滝の音に、秋保大滝へと導かれる。里の奥山で思いがけず出会う大滝の迫力と、日本の原風景のようなのどかな山里の景色が、心を癒し、力を与えてくれる。
松島湾は、平安時代の都の人々や江戸時代の俳人である松尾芭蕉をはじめ、文化人を強く魅了してきた。湾内には、大小さまざまな島が260余り浮かんでおり、遊覧船に乗って観光することもできる。湾を一望するなら、東西南北に4ヵ所にある四大観に足を運んでみたい。四大観とは、眺めの印象を表す名称である。「壮観」は大高森からの眺めで、「麗観」は富山、「偉観」は多門山、「幽観」は扇谷。松島湾の景観は、見る場所によって大きく変わるのだ。鮮やかな紅葉と島々が浮かぶ湾の風景を松島海岸駅近くで鑑賞するなら「西行戻しの松公園」がおすすめだ。西行とは、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて武士、僧侶、歌人として生きた人物。諸国行脚の途中、松の大木の下で童子と出会い、禅問答に破れた。童子に、才人が多い霊場松島に行くと恥をさらすと諭され、この地を去ったという伝説が残っている。また、松島湾の南西部は千賀の浦、塩竃の浦とよばれ、昔から歌枕として数多くの歌に登場してきた。現在その付近には、マグロをはじめ、豊富な水揚げ量を誇る塩釜港がある。この浦を眺めるなら、塩竃市の高台にある、志波彦神社・鹽竈神社を訪れたい。ビュースポットは、志波彦神社の前方にある御神苑。都人が憧れた浦の景色を、庭園の紅葉越しに堪能できる。御神苑は、池の中心に作庭されている。秋は、朱塗りの鳥居ともみじの赤が響き合い、神社ならではの景観に。池の水面にも鳥居ともみしが絶妙な配置で映りこみ、庭造りの奥深さに、思わず感じ入る。