わかりやすい天の邪鬼
天の邪鬼(あまのじゃく)とは、「①わざと人に逆らう言動をする人。つむじまがり。ひねくれ者。②民間説話に出てくる悪い鬼。物まねがうまく、他人の心を探るのに長じる。あまんじゃく。③毘沙門天の鎧の腹の辺りにある鬼の面。また仏像で、仁王などの仏法守護神に踏みつけられている小鬼。」と国語辞典に書いてある。もちろん、この他にも「悪者」「山姥」「妖怪」など諸説あるようです。今日お話しするのは、例によってあまり変わり映えのしない日常の一コマですが、ちょっとおかしかったので、皆さんのご家庭でも話題にして楽しんでいただければと思いました。天の邪鬼といえば、一番に思い浮かべるイメージは、やはり「ひねくれ者」ではないでしょうか。わが家のオヤジも、一言で言えば「ひねくれ者」に属するのでしょうが、相棒としては少しかわそう過ぎるような気がしてならないのです。そこで、ボクはオヤジのことを「わかりやすい天の邪鬼」と新しい呼び方を開発したわけです。この話をお聞きいただければ、ネーミングの意図に賛同していただけるのではないかと期待しています。
その話というのは、何の変哲もないいつものような会話でしたが、お母ちゃんが放った一言がきっかけでした。わが家では、ボクが、リンゴが大好きだったということで、今でも一年中リンゴが必ず食卓に並びます。特にオヤジの分は少し量が多く、おまけに昼にも食べます。でも、果物とはいえ糖分が多いので、最近はかなり薄めにカットされているのが可哀そうです。この季節は、本格的なリンゴのシーズンには少し早いこともあって、オヤジの好みに合うリンゴが中々手に入りません。今朝のリンゴもフカフカで歯応えがなく、ちょっとがっかりしていたようですが、それでも、リンゴなら何でも食べるというオヤジの姿勢は今も全く変わっていません。お母ちゃんは、朝食の最後に、大抵自分の一切れをオヤジに、「これあげる」といって差し出すのが通例です。今日も今日とて、「これあげる」といったところまではいつも通りなのですが、そのあとに、「美味しくないから」と付け加えたのです。するとオヤジがすかさず言った。「美味しくないから人にあげるのか?」と。しかし、そのあとで、そう言いながら喜んで食べる人もどうかしているかもしれないな!
お母ちゃんも、オヤジはリンゴが大好物で、かじったときパリッと音がするくらい硬くて、甘みの強いものが好きですが、ボクのリンゴの食べ方(どんなリンゴでも美味しくいただいた)に習い、リンゴであれば、要らないとは言わないことをお母ちゃんは知っているのだから、ついうっかり「美味しくないからあげる」といってしまったのでしょうが、ちょっと余計なことを言ってしまったようです。そこでこんどは、天の邪鬼のオヤジが余計なことを言ってしまった。本当の天の邪鬼なら、「美味しくないから人にあげる」などというものは、要らないと見栄を張り通して食べなければ、"立派な天の邪鬼"だが、同じものをお母ちゃんの目の前でさんざん食べておきながら、さすがにそれはないだろうと思ったか、それとももう少し食べたいと思っていた心の内をお母ちゃんに見破られていたと悟ったか、いずれにしても、すぐにパクリと口に運んだところが、純粋の天の邪鬼とかなり違う気がします。つまり、オヤジの場合は天の邪鬼というよりは、落語の中の「饅頭怖い」に近い、「仮性天の邪鬼:わかりやすい天の邪鬼」だとボクは思うのです。