希望はあくまでも希望
先日の大雪がまだ残っている寒い日、お母ちゃんたちとボクは、オヤジの仕事に付き合い石巻に出かけることになりました。約束の時間は午後1時であったため、道路状況を勘案して10時30分過ぎに家を出ました。幸いにも路面には殆ど雪がなく、スピードを抑えたせいでいつもよりは遅かったものの、意外にかなり早く着いてしまいました。そこで、少し寄り道をしてから昼食をとることにしましたが、目当てにしていた「吉野食堂(なじみの食堂)」は定休日でしたので、別の店に向かうことにしました。その日は朝食が少し遅かったためか、まだお腹がすいていなかったのですが、午後の予定もあったので、とりあえず、一度は入ったことのあるハンバーグレストランで軽めの昼食をとることにしました。その店は、開店間際だったので、入店すると、店長と思しき男性手がテーブルに案内してくれました。そして、「今日のお薦めはこちらです」と、ステレオタイプのセールストークを浴びせられました。
オヤジは、「こちらが、『お薦めは何ですか?』と聞いてからでも遅くはないように思うのですが、いかにも事務的で無味乾燥な言葉を放つ。これでは全くプライミング効果などは期待できない。」なとど、評論家のような感想をお母ちゃんにぶつけていましたが、お母ちゃんは、「うちの店でも、気をつけているつもりでも、お客様から見れば売りたいものを売ろうとして誘導していると映っているかもしれない。初期対応は本当に難しいものです。」と、言いたい放題のオヤジの軽口にブレーキをかけていました。そんな小難しい会話をした挙句、結局オヤジが注文したのは、「今日のお薦めの料理」でした。お母ちゃんもメニューの隅々にまで目を通した結果、オヤジと同じものを注文しました。ちなみに、こうしたパターンは数十年来続いています。肝心の料理の味についてはあまり期待していなかったようですが、二人の舌に合ったようで及第点をつけました。
定刻の午後1時にはまだ間がありましたが、オヤジを早めに約束の場所まで送り届けました。会議は、予定通り2時間ほどで終了した。帰り道、「今日はどういう会議だったの!」とお母ちゃんが聞くと、製品開発や希望小売価格に関する話題だったとオヤジは言いました。お母ちゃんとボクは、その時ピントときました。これは話が長くなると思ったのです。お母ちゃんとボクは、顔を見合わせて、会議の内容など聞くべきではなかった。失敗したと後悔しました。そこでお母ちゃんは、「ところでお父さん! 今日の夕飯はどんなものにします」と間髪を入れず話題を変えました。するとオヤジは例によって「何でもいい。ただし、できれば野菜スープは避けてもらいたい」というのです。すると、お母ちゃんは、「解りました。一応希望として聞きておきましょう!」と答え、さらに、「希望はあくまでも希望ですから、必ず叶うとは限りません」ときっぱりと言いました。オヤジは、やられたと思ったのか、「希望は叶わないことの方が多いからな!」と、肩を落としていました。