晴れたらいいね
東北自動車道大和インターからほど近い大和町落合に「晴れたらいいね」があります。小さな看板を頼りに辿り着いたその店は、大きな農家の屋敷だった。店主の上野忠夫さんが「平成13年の宮城国体で、選手15名を民泊で引き受けました」と説明する。大和町体育館で自転車競技が行われ、宿泊所として民家が受け入れたのだ。「田舎料理をとても喜んでもらえ、こちらも嬉しくなってね...」。これをきっかけに平成15年、農家の傍ら、夫婦で農家民宿(現在は会員制)と、手打ちそば屋を始めたという訳だ。奥の食堂へ行くと、奥様の智賀子さんがにこやかに出迎えてくれた。テーブルが並ぶこのスペースが店舗で、手前の大座敷は待ち合わせ用という。「まずはそば茶でもどうぞ」と出されたお茶が、香ばしくておいしい。自家製粉したそばを炒めたものという。智賀子さんの細やかで丁寧な対応が嬉しい。
ここで使う原料は、自家栽培と近くの農家が作った玄そばを、その日使う分だけ電動石臼で挽き、自らふるいにかけて調整するもの。そば粉八割、つなぎ二割の二八そばで、「つるつると食べやすいように」手打ちにしている。メインのそばを待つ間、付け合わせの野菜が出てくる。きゅうりやキャベツの浅漬けに長茄子漬、湯剥きした生トマト、ジャガイモの素揚げ。ほとんどが自家栽培ということで、塩加減は薄いのだが、それぞれ素材の味が濃くて旨い。さあ、冷たいそばは。やや平打ちの細い麺線は透き通って光沢もあり、きれい。さっそく手繰ると、するすると口当たりが良く、噛めば結構弾力がある。少なめに盛られた辛汁と合わせ、しっかり噛んで美味しいそばだ。「返しも自家製。半年以上も寝かせていますよ」とご主人。厚削り鰹節、北海道産昆布、国産椎茸を使い、甘みは控え目という。
すでに旨さは納得済みの、新鮮野菜を使った天ぷらがまた絶品。海老を満月(玉ねぎと小海老)、ゴーヤー、紫蘇、カボチャなど、旬の野菜がたっぷり。さらには、"おかめ"(揚げそばがき)は外がサクサク、中はもっちり。づんだや甘辛など、美味を選べる。器の選び方や盛り付けなども丁寧だ。「スタッフを合わせ、3人で200歳強。年寄なので行き届かないところはすみません」と智賀子さん。いえいえ、至れり尽くせりのもてなしです。母屋の周囲に広がる畑には、ネギや胡瓜などなどの一般的な野菜から、"ズッキーニカボチャ"、"メロンスイカ"といった珍しい掛け合わせ品種まで、実に多種多彩。「そばは畑も含め、全部無農薬ですよ」とのこと。間髪を入れず、「できるだけ安心・安全な美味しさでおもてなししたいですからね」と奥様。まさに阿吽の呼吸、美味しさを増幅させる、夫婦の連携プレイに拍手喝采だ。