そば処 穣庵(旧たまき庵)
名勝秋保大滝のそばに店を構えて40年余り、自家製手打ちそばの名店として、また天然の山菜やキノコが楽しめる店として、抜群の人気を持つ穣庵。「普通、そば屋は『いつも変わらぬ美味しさ』をめざすけど、うちの場合は、いつも変わらぬ味ではなくてねえ」と、言葉を飾らずに発するのは先代店主の佐藤慎一さん。全国のそば屋をめぐることをライフワークとし、これまで九州から北海道まで3千軒以上を食べ歩いてきた。行く先々で店主らと交流し、地元の素材の話を聞けば、その飽くなき好奇心と向上心が黙っていられない。「土地ごとのそばはもちろん、だしを取る材料もいろいろ使ってみています」。薩摩の鰹節、新潟の焼きアゴ、青森の炭焼き真アジや眞イワシ等々。倉庫から出して見せてくれたのは、東北の近隣を取材しているだけではお目にかかれないものばかり。
「そばはごく単純な料理。だから、食材を吟味せずに美味しいそばを出すことはできないでしょう。もっとも、美味しい美味しくないは人それぞれですけどね」。当然ではあるものの、店主の視線はもっと先を見ているようだ。もちろん、ベースがかつお枯節厚削りにあることは変わらず、そこに、その時の素材を使っているという。こだわりは昆布にも及び、羅臼産の大振りなものを買い付けて2ないし3年寝かせ、旨味を増やして使う。返しは、醤油、上白糖、みりんの本返しだ。「そば汁は、素材をいろいろ使っても、どれも主張しないことが大事。そば湯を入れて飲んだ時に、後味がいいのが本物」とのこと。息子で現店主の徳具さんも片腕として早くから厨房に入っていたが、「数字で確認することも必要です」と、返しや汁を濃度計でチェックする。
石臼4台とロール挽き1台の製粉機を使い、御前粉、田舎、そばがき用など常時6種類を自家製粉している。つなぎ2割前後の細打ちそば、一番粉を使う御前そば、黒く太い田舎ざるなど、手打ちの種類も多彩。これを、件の汁で手操るのだから贅沢だ。ざるそばは、新そばにもかかわらず、青みがかかって香りもいい。そして辛汁といえば、想像通り、かつおだしだけではないのはわかるが、とにかく深みがある。そして、緑色の上質なそばの実をえり分けて作る『限定プレミアムそばがき』は一食の価値がある。ねっとりとした食感とともに、そばの味、香り、甘みが驚くほど濃厚に口に広がる。さらに、秋には、近隣で採れる天然舞茸や、野生の鴨を使うそばも見逃せない。「時間がある方は、ぜひ食材談義をしましょう」と店主の徳具さん。そして「ツイッターとフェイスブックも見てください」とのこと。