手打ち蕎麦 嘉泉
仙台市青葉区一番町にある「手打ち蕎麦 嘉泉」は、地元のサラリーマンが通う気軽なそば屋ですが、そばとそば汁の美味しさにかけては、有名店に引けを取らないと評判です。「土たんぽを使うようになったのは15年ぐらい前から。温度を上げるのもゆっくりだし、冷ますにも時間をかけるので、汁の味に丸みが出るんです」と話すのは、店主の石泉嘉一さん。江戸時代から伝わる土たんぽは、そば汁を湯煎する際に使う、陶製素材の道具です。今はステンレス製の金たんぽにとって代わり、使用している店はごく少ない。石泉さんによれば、「新しいものより、昔のものが断然いい」とのこと。現代の製法では陶のキメが細かく固いため、汁の温度がすぐに上がってしまうのだそうです。そば汁へのこだわりは、湯煎だけではない。だしの材料は、かつおの本枯れ節でも、本場枕崎産を選び、腹側でコクのある雌節、背側であっさり目の雄節を組み合わせて使う。
しかも、香りが逃げないよう、鍋に入れる直前に、店内で圧削りにするという念のいれようです。また、余計な手は加えず、シンプルにと、昆布は使わない。「もともと宮城県では、そば汁のだしに昆布を使う習慣はなかったようですね」とか。超特選醤油、白ザラ糖、みれんで作る本返しと、だし汁の割合は、一対四。これを合わせて土たんぽで湯煎するのですが、やはり一番気を遣うのが温度です。ゆっくり1ないし2時間かけて80度まで熱し、冷やします。そうこうするうちに、土たんぽの口まであった量が、数センチぐらい目減りする。これが、コクや味の丸みが深まる証拠です。そばは、国産の玄蕎麦を店内の石臼で自家製粉し、手打ちと機械打ちの両方を出します。
仙台愛子産の常陸秋そば、秋保産野尻長治そばなども使う手打ちそばは、つなぎが一割のといちそば。ほどよくコシがあり、香りが高い。辛汁だけを味覚すると、甘みが控え目、味は濃い目で、濃密な印象。そばと一緒になると、それぞれの美味しさが増幅するのがわかります。最後、そば湯で割ってみると、薄めた感じがなく、バランスの良い美味しさで、温かくなることで旨みが立ち上がってくるようです。自家製麺(機械打ち)のオリジナルメニューにも注目したい。オープン時の31年前から人気なのが冷たいそばを鶏肉、山芋などか入る辛汁ベースの熱いつけ汁で食べる「仙台つけめん」。細切りとろろのシャキシャキした歯ざわりと、生姜のアクセントが効いている。また、野菜の特大かき揚げなどがのる三色いなりずしと、そばを組み合わせた、「いなそばセット」も見逃せない。石泉さんは「宗田かつお伏そば節を使う温かい甘汁も、ぜひ味わってみて」と話しています。