阿部勘酒造店(その1)
塩竈神社のお膝元に店を構える阿部勘酒造店は、創業享保元年(1716年)という老舗ですが、十数年前までは塩竈市と周辺の2市3町といわれる、地元だけで愛飲されてきたのだそうです。そのためか、年間500石という小規模の蔵で、文字通り地場の酒蔵といえるでしょう。塩竈市といえば鮨が有名ですが、この地元の魚と合う酒を長い間造ってきたのだそうです。しかも、できる限り地元の米を使い食べながら飲み飽きない酒を造ってきたのですと、専務の阿部昌弘さんは言っています。
「うちの蔵はずっと「偉人正宗」と「男山」でやってきました。正宗も男山も特定の銘柄ではなく、旨い酒の代名詞みたいなものです。江戸時代は、鹽竈様の門前に旅籠や遊郭が立ち並び、仙台から参拝目的で遊びに来る時代が長く続いたようです」。江戸時代から伝わる「塩竈甚句」に"総社の宮から胸勘定"という一節があり、当時の人々が塩竈へ来ることを楽しみにしていたことが窺えます。
阿部勘酒造店は、来年で300年を迎えますが、創業当時から、鹽竈神社の御神酒御用酒屋として、仙台藩より酒造株を譲り受けて酒造りが始まりました。毎年御神酒を奉納し、現在では「阿部勘」「於茂多加男山」「四季の松島」の銘柄が揃っています。純米酒や吟醸酒に力を注ぎ、酒米として有名な亀の尾で仕込んだ酒も造っています。さらに、平成15年からは、粕取り焼酎の製造販売も行うようになりました。