ポーカーフェイスのムサシ
わが家に来たころのムサシは、生まれて間もない時期だったので、事の良し悪しなど判断できる状態ではありませんでした。ましてや、人間社会のしきたりを理解することなど不可能だったに違いありません。それでも、あっという間に学習し、わが家のルールを会得し、私たちを困らせるような行動は全くと言っていいほどなくなり、名実ともにわが家の家族になっていきました。
そんなムサシも美味しいものには目がないらしく、たまには、台所に置いてある野菜をかじったりすることもありました。しかし、私たち家族は、そのことを叱ったりはしなかったので、ムサシも、まるで何もなかったかようなすまし顔でした。こうしたポーカーフェイスがあだとなり、チョコレートのつまみ食い事件やガラス戸のひび割れ事件の容疑者にされたこともあったのです。
あとで無実が判明したからいいようなものですが、その時は、ムサシがとぼけているのではないかと疑ったものでした。彼にしてみれば、特にポーカーフェイスを気取ったわけではないのでしょうが、我々には真似のできない平然とした態度に、かえって幻惑されてしまったのかもしれません。しかし、そんな時でも決して弁解するようなことはなく、時が解決してくれるのをじっと待つ姿勢は今も健在です。