ムサシもびっくり
ムサシは生まれて間もなく、今の住まいである塩釜につれてこられ生涯をすごしたので、私たちがかつて石巻に住んでいたことは知らないと思っていました。しかし、石巻を度々訪れていたことで、わが家のルーツがここであることをとっくに悟っていたようです。勘のいいムサシのことですから、当然といえば当然ですが、よく周りを観察していたのには驚きました。
あの東日本大震災の直後には、後片付けのために度々訪れていたので、その頃の家並みもよく知っているわけですが、その時は瓦礫の山に囲まれていたためか、住んでいる人達の熱気が伝わってきたというのです。ところが、しばらくぶりで訪れてみると、まるで人気はなく、周りの荒涼とした風景だけが目に入り、懐かしささえも感じられなくなったというのです。
もちろん、私たちもそうした印象はもっているものの、あまりに悲しいので誰もいいだせなかったのですが、ムサシにしてみれば、時の流れが一層身にしみたのかもしれません。それでも、学校のそばを通りかかると、子供たちの元気な笑顔に出合うことができ、ほっとした表情を見せましたが、自分が抱いていたイメージとの落差に戸惑いの色を隠せなかったようです。