讃岐づくり本格手打ちうどん 麦の季
仙台市から東北自動車道を利用して約40分。住宅街の一角に、オープンガーデンが目を惹く「麦の季」がある。店主の奥村さんは32年間で2700レースをこなした元競輪選手。「店を閉めた14時以降は自転車に乗れると思って、たかをくくっていたけれど、毎日の足踏みに忙しくてそれどろじゃなくて」と笑う。足踏みとは、熟成したうどんの塊を厚手のビニールの上から何度も足で踏みつける作業。こうすることでうどんの中にグルテンが形成され独特のコシが生まれるという。
手ごね、足踏み、すかし打ちといった一連の作業を経て作られるうどんは、打ち粉に化粧されてなんとも色っぽい。麦の季の夏定番のざるうどんは、コシの強さと弾力にありといわんばかりのしなやかさが魅力だ。足踏みなどの生地鍛えと成熟をそれぞれ5回、全工程を毎日約5時間かけて行うという。讃岐のうどんはざるうどんでわかるというが、一口食べれば丁寧な製造工程に裏打ちされた品質に舌が唸る。うどんやそばのカレーといえば、一般に鶏肉が馴染み深いが、麦の季のカレールーには米沢牛の筋とアケレス腱が使われ、夏野菜と一緒にしっかり溶け込んでいる。
ルーの下に眠る釜茹で状態のうどんは、さすが宮城県で唯一手打ちうどんとして、ミシュランガイド宮城2017特別版のビブグルマンに認定されただけある納得と感服の味だ。「なぜ讃岐うどんにこたわるかといえば、選手時代に四国で食べたあの一口が忘れられなかったから。香川に行かずとも白石でうちのうどんを食べて、同じように思ってくれたら嬉しい。味は良い思い出と直結しますからね」と奥村さん。一度食べたら忘れられない。そんなうどんがここにある。