みやぎの銘菓(その5 オーイング菓子工房Ryo:お山のマドレーヌ)
南三陸さんさん商店街の一角に、ひときわ甘い香りで道行く人の足を止める店がある。「オーイング菓子工房Ryo」。甘い香りの先にあるのは、新進気鋭の若きパティシエ長嶋涼太さんが作る焼きたてマドレーヌだ。長嶋さんの実家は、明治10年から続く石巻最古の菓子舗「笠屋菓子店」。長嶋さんは仙台の調理師学校で和洋中全般の料理を学んだ。菓子作りに魅了されたのは、卒業後に就職した菓子店舗での修業時代。調合ひとつで自由自在に変わる菓子づくりに夢中になり、いつしかお菓子職人への道を目指すようになった。結婚を機に南三陸へ移り、家族にマドレーヌを焼いてご馳走すると、今まで食べていたものとは全然違うと驚かれた。
「自分ではこんなの当たり前の味と思っていたのに、マドレーヌが苦手だった家族が美味しいと言ってくれた。移動販売で町内を回るうち、自分の店を持ちたいと思うようになりました」。その道半ばで起こった東日本大震災。長嶋さんは震災前と変わらず、自分のマドレーヌを焼き続けた。表面はカリッと風味良く、中はふんわり柔らかく、山のように膨らんだマドレーヌ。日常の景色は一変しても、変わらぬ味がそこにあった。さんさん商店街で念願の店を持ち、再起をかけてスタート。長嶋さんが「プレミア」と呼ぶ焼きたてのマドレーヌの美味しさは、南三陸を訪れた人だけに与えられる特権だ。
冷めても十分に美味しいのは、生地がしっとりと落ち着き、得もいわれぬ味わいが増すため。ボリュームもあり、男性客のリピーターが多いというのも頷ける。「お菓子作りは魔法。材料の調合1つで味も色も変わります」。マドレーヌの焼きあがりは、開店時間の11時から16時まで30分おき。その売り上げ数は一日平均300個、土日はその3倍を上回るという。「南三陸を応援してくれた人たちが自分の姿を見て、あいつ頑張っているなと思ってもらえたらそれが恩返し。これからも、どこか懐かしくて安心するお菓子をつくっていきたい」。当店にしかない可愛いギフトボックスに入れて、南三陸の元気と美味しさを届けたい。