竹峯山 華足寺
東和町から気仙沼へ向かう国道346号から鱒渕川に沿って進むと現れる小高い山が、竹峯山 華足寺(ちくぶざん けそくじ)である。樹齢300から500年の老杉に囲まれた鬱蒼とした参道を1㎞ほど進むと、200年余の歳月を経た立派な山門が迎えてくれる。「当山は807年、坂上田村麻呂が敵味方の別なく戦争犠牲者の魂、軍馬の霊を鎮撫するために建立した寺と伝わっています」と話されるのは住職の千田観宥さん。1200年の古刹は、長い歴史の中で藤原三代、葛西家、また伊達家の庇護を受け、豊かな自然に溶け込みながら、庶民の厚い信仰を集め今日に至っている。
本尊は馬頭観世音菩薩で、馬の霊場としては日本最古。奥州七観音、奥州三十三観音霊場になっている。現在の七堂伽藍の殆どが江戸時代の建築物。苔むす階段を上っていくと見えてくる馬頭観音堂は、古色蒼然とした美しさをまとい、馬頭観音菩薩は33年に一度のご開帳のため、見られないものの、背面にまわれば、信者が奉納した絵馬の数々に、熱い信仰の歴史を感じることができる。その裏手にあるのは、坂上田村麻呂の愛馬・郷黒を弔った墓辺から異光が発し、そこから出現した約9㎝の観音像を土中深く収めて建立したという奥の院。
さらに奥には、地蔵堂、馬の納骨堂などが続き、動物憐憫(れんびん)の寺であることが窺い知れる。「ここは林業の町で、昔は山から杉を運ぶのも馬でしたから、馬の行列とともに参拝に来ていました」。今でも近隣の人はもとより畜産業関係者など県外からの参拝者も多く、ペットのご供養の相談に訪れる人も多い。また、古くから伝わる献膳の儀式があり、麻裃を身に着けた男性が15膳の三方を捧げ亢進する厳かな儀式が春の例大祭に行われる。新年の伝統儀式としては、除夜の鐘の後、観音堂での護摩祈祷、さらに庭に下りての紫灯護摩(さいとうごま)が古式に則り行われるという。厳かな空気が満ちる神聖な山で迎える新年は、えも言われぬ感動をもたらしてくれることだろう。