味処 豆や(とうや) (青葉区栗生)
昼はそば屋、夜はそば屋居酒屋として営業。多彩に並ぶメニューの一品ごと、店主の技と心意気が映る隠れた名店だ。山形のそば生産農家、そば粉専門会社と緊密に連携。大地の恵みを届けようと、香り高い「でわかおり」種を石臼粗挽きにして使用する。「自然素材であるそばは繊細で、気温や湿度が微妙に影響します。そば粉と向き合いながら日々気づきを得、勉強させてもらっていますよ」と、佐野店主。店の看板そばが、玄そばを月山の湧き水に浸して天日干しする「寒晒し」。その「もり蕎麦」は、切り口がきりりと立った中細麺だ。口に含むともちっとした食感で、のど越しもいい。
舌に残った甘みは、湧水晒し特有のものとのこと。猪口にたっぷり入ったつゆも、旨みのバランスが絶妙でよく合う。聞けば枕崎の本枯れ鰹節、日高昆布、江戸伝統の超特選醤油と、材料を吟味している。また「手打ちもり蕎麦と天ぷら盛り」は定番人気。粗挽きされた淡い透明感のあるそばは、中細できれいな光沢を発している。するすると手繰れば、さわやかな香りが口から鼻へと抜けて美味しい。冒頭にある通り、そば以外の料理の充実ぶりも特筆したい。山形そばに欠かせないのが、いかげそ天。「今日は真いかなので、小ぶりですね」というが、山菜天もはいってかなりのボリューム。さくさくやわらかく揚がって美味。
そばとセットの天ぷらは、彩り豊かな10品種盛り。冬はハゼ天が付くというから期待も膨らむ。他に、冷たいそばを温かいつけ汁で食べる「豚つっけ蕎麦」や「にしん舞茸つっけ蕎麦」もおすすめ。夜の料理で評判なのが、熊本直送の馬刺しだ。イチオシは希少な部位も含む3種盛り(ふたえご・ロース・上赤身)、そしてユッケもぜひ賞味したい。阿蘇の専用超甘露醤油と抜群に合う。店主の佐野さんは、もともと食べ歩きが好きだったことから、十数年前にこの道に飛び込んだ。「お客様の笑顔が見たくて。毎日精進あるのみですね(笑)」。カウンターと小上がりで20席の居心地のいい店内。家族連れが多いというのもうなずける。昼も夜も通いたくなる店だ。