6年も孤独な日々に耐えた老犬ツトム君が見つけた「新しい幸せ」-その2
ボランティア団体は、飯舘村を訪れるたびに糞尿で汚れた小屋を掃除するなど、ツトム君が少しでも快適に暮らせるよう懸命にサポートを行いましたが、家族のようにつきっきりの世話ができるわけではありません。このままではツトム君は危険な状態......。ふたたびご主人と暮らし、飯舘村の美しい自然のなかを散歩するのをずっと待ち望んでいたであろうツトム君。しかし、日に日にやせ細り、排泄のコントロールもきかず、小屋で糞尿まみれになってしまうような状態を、これ以上、放置するわけにはいけません。2017年7月、ツトム君はついに慣れ親しんだ故郷・飯舘村を離れることになりました。ツトム君の現状に心を痛めたボランティア団体が、ツトム君を新しいご主人に引き合わせてくれたのです。ツトム君の新しいご主人は、老犬の介護看取りをライフワークとしている東京都のOさん。わざわざ飯舘村まで足を運んだOさんは、一目でツトム君を気に入り、ツトム君もまたすぐにOさんになついて散歩に出かけるなど、まさしく運命の出会いでした。子犬のころからツトム君を育ててきたご主人も苦悩の末、ツトム君を遠方の里親に託すことを承諾してくれました。
ただただツトム君の健康と幸せを願って......。こうして故郷・飯舘村を離れて、Oさん宅に迎えられたツトム君。その後、新しい環境に慣れることはできたのでしょうか?ツトム君の新しい家族は、ご主人のOさん、奥さん、そして先住犬のメイちゃんや2匹の猫です。メイちゃんはほかの犬には警戒するのに、なぜかツトム君とはすぐに仲よしに! もともと人間にも動物にもフレンドリーなツトム君の、犬柄(?)のたまものかもしれません。また、猫たちもおっとりとしたツトム君のそばには安心して寄ってきます。Oさん宅では飯舘村のように野生動物に襲われる不安もなく、のんびりくつろぐこともでき犬小屋生活が長かったせいか、寝るときにからだの一部を壁にくっつけるほうが落ち着くようです。そんなツトム君のために、Oさんは壁の近くに敷物を敷いてあげています。まだあばら骨が浮いていますが、移住してからわずか1か月半ほどで、体重が4~5kg増えたとのこと。毎日おいしいご飯を食べているおかげです。ここでは広々としたお庭で大好きなお散歩もできるので、後ろ足の状態もよくなってきました。
それでも、おうちの中でそそうをしてしまうのは相変わらず......なようですが、ご主人のOさんは「しょうがないよな~」と笑顔で受け入れてくれています。このように、飯舘村の厳しい環境から移住して、現在の平穏な環境で過ごす中、ツトム君の内面にも変化のきざしが......。ずっと吠えなかったツトム君がついに寝言で「ワンワン!」と発したそうなのです!ここにいれば、もう暗闇のなかでおびえたり、寒さにこごえたりする必要はありません。6年間の孤独な日々を耐え抜いたツトム君は、今は温かい家族とともにおだやかな日々を送っています。避難先から住民が戻ってきたり、ボランティア団体が地道に里親探しの活動を行ったりしているものの、被災地では今もなお、取り残されたペットたちが少なくないようです。また、避妊手術を受けていない犬、猫から新しい生命が生まれ、その子たちも十分なケアを受けられている状態ではないといいます。被災地のペットたちが1匹でも多く、ツトム君のような幸せを見つけられるように、私たちひとりひとりも何かできることがないか、考えていきたいものですね。