お母ちゃんの災害対策
2月13日、福島県沖で発生した地震には驚きましたね。あの東日本大震災から10年という節目に、またぞろ大地震か、という思いが頭をよぎった方も多いのではないでしょうか。揺れの程度は大震災よりは小さかったものの、ここ10年間では経験したことがなかっただけに背筋が凍る思いでした。テレビの地震情報を聞きながら、津波の心配はないとのことなので、各部屋の点検をして見たところ、やはり、棚の書類や衣類などがかなり散乱していたのを発見しまた。夜も遅い時間だったので大雑把に片づけて、最後にキッチンを点検していた時、オヤジはお母ちゃんに向かってこういった。台所は相当ひどくやられているな! するとお母ちゃん。台所はぁ...と途中まで言いかけて言葉をとめ、にやりと笑った。つまりオヤジが言わんとしたことは、台所の散らかりようは地震のせいだと勘違いするほどの様子であるという、一種のブラックユーモアというか、皮肉というか、それとも単なる軽い冗談なのか解らない言い回しで、日頃の怠慢を指摘したわけです。でも、さすがお母ちゃん、少しもひるむことなく、大きな声で笑いだしました。
普通なら、「どこが散らばっているの、ちゃんときれいにかたづいているじゃない!」と反論するところなのですが、今日はどうしたことなのでしょう。ボクが思うに、さっきの地震が思ったほど大きくなかったことで、とても安心したため、心が穏やかになり、少しぐらい皮肉を言われても、ものの数ではないという大らかな気分になっていたからに相違ありません。それが自分でもおかしかったものと見えて、眠りに着くまで終始ご機嫌のようでした。で、翌朝になって、何を思ったのか家の周りをぐるぐる回り、壁面のひび割れなどを丁寧に点検しiPhoneのカメラに収めていました。人は、何らかの被害を受けて意気消沈しているときは、こみ上げてくる悲しみをひたすら堪えるのが精いっぱいで、他には何も考えられなくなるものですが、それが何とかおさまり冷静になると、それが怒りに変わり、誰かにぶっけたくなります。お母ちゃんは、昨夜の地震で10年前の恐怖体験がフラッシュバックしたものの、実質的な被害がなかったことで、すぐに平常心を取り戻しました。そうなると、こんな思いをさせた責任者ば誰だ! という怒りが頭を持ち上げ、その対象(相手)を見つけようと奔走しているようでした。
そして見つけたのが、建物のひび割れだったという分けです。その着眼と自分の行動力に満足した様子で、さっそく、保険会社に連絡するようオヤジに頼んでいました。ちなみに、キッチンは夕べと全く変わっていません。でも、オヤジはそのことにはまったく触れません。このように充実感を満喫しているときに、「台所を片づけたら!」などと言おうものなら、「気がついた人が片づけてください」と、言いながら鬼が笑ったような顔で ジロっと睨まれることがわかっているので、こういうときは黙って従うのが一番と思っているようでした。それにしても、保険会社が地震を起こした張本人の地球に変わって、やりとりすることになるので、担当の方のご苦労が目に見えるようです。普段は、「そんなことはできない」などとカマトトぶっているが、男が役に立たないと知るや、がぜん識者ぶりを発揮して、どいてなさい! 私がやりますなどとしゃしゃり出る。"だったら最初から自分でやれよ!"(これは男の言い分)といじける。でも、この淀んだ空気を素直に受け入れることがわが家の災害対策になっているのかもしれません。