6年も孤独な日々に耐えた老犬ツトム君が見つけた「新しい幸せ」-その1
あの東日本大震災から間もなく10年になろうとしています。そんな中で、被災地で奮闘している動物支援ボランティア団体があります。今日のお話は、2017年10月にそのボランティア団体の方々によって語られた悲しくも暖かい物語です。「東日本大震災から6年。あの震災によって避難生活を余儀なくされた住民は数多くいますが、人間と一緒に避難できなかったペットたちがどうなったかご存知でしょうか? 苦難を乗り越えた、とあるワンちゃんのエピソードをご紹介します。2011年3月11日。あの東日本大震災の影響を受けたのは、人間だけではありません。人間と家族同然に暮らしていたペットたちもまた、あの日を境に平穏な生活を奪われてしまったのです。福島県飯舘村(いいたてむら)にて6年間、独りぼっちでご主人の帰りを待ち続けたラブラドール犬・ツトム君のエピソードをご紹介します。被災地のペット支援を行うボランティア団体『清川しっぽ村』の吉島崇憲さんにお話をうかがいました。このツトム君の生き様は、動物愛護についてもっと考えるきっかけになりそうです。
飯舘村は、周囲を山林に囲まれた緑豊かな里山。地震の揺れそのものの被害はほかの地域ほど深刻ではなかったものの、原発からわずか40キロに位置するこの村では、高濃度の放射線汚染により、全村避難を余儀なくされました。避難生活にはさまざまな制約が伴うもの。仮設住宅では犬や猫などペットを飼うことはできません。どんなにペットへの愛が深くても、住民たちは断腸の思いで"家族"を故郷に置き去りにせざるをえなかったのです。ツトム君も飯舘村に残された一匹。大好きだった散歩にも出かけられなくなり、小屋でただひたすらご主人の帰りを待ち続ける日々を送ることになります。震災直後から、ボランティア団体が現地入りして給餌活動などを行ったおかげで、ツトム君はなんとか飢えをしのぐことはできました。とはいえ、避難命令の出た飯舘村では、ボランティアの活動も日中に限られ、夜間は立ち入ることができません。漆黒の闇に包まれ、野生動物に襲われる危険もあり、さらに冬場は連日氷点下を記録する極寒の村......。独りぼっちのツトム君はどんなに不安だったことでしょう。
ボランティアの人々は、ツトム君が吠えるのを一度も聞いたことがないといいます。震災前からもともとおとなしいワンちゃんだった可能性もあるものの、多くの被災者たちがPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされたのと同様、ツトム君もまた、心に深い傷を受けたのは想像に難くありません。忽然と住民が消えた飯舘村において、ツトム君がご主人を待ち続けて早6年......。2017年の春、ようやく避難指示が解除され、飯舘村にも少しずつ人気が戻ってきました。ところが、ツトム君の孤独な日々は続きます。ご主人は飯舘村に家を新築するなど、再びツトム君と暮らす準備を着々と進めてはいたものの、やむにやまれぬ家庭の事情で、まだしばらく戻れないことになったのです。そして、すでに老犬の域に差しかかったツトム君は、このころから目に見えて衰弱していきました。長きにわたる孤独な生活のストレスからか食欲がなく、あばら骨が浮き出るほどに......。さらには後ろ足が弱くなって歩くこともままならなくなり、ついには小屋のなかでそそうをするまでに至ります。