八幡町甘酒
厳寒の中、大崎八幡宮へ向かう、どんと祭の裸祭り。仙台の冬の風物詩だが、その光景と共に思い出されるのが、冷えた体をじんわりと温めてくれる甘酒だ。「門前の八幡町に自宅があり、昭和の終わりごろまでどんと祭では祖母の自家製の甘酒を来客に振舞っていました」と振り返るのは、八幡町甘酒の代表、榊原光裕さん。ピアニスト・音楽家として活躍されている榊原さんだが、4年前に自ら甘酒「竹園(ちくおん)」の製造販売をはじめた。
きっかけを「明治生まれの祖母の話ではどの家庭でも甘酒をつくっていたし、八幡町にもお多くの麹屋があった。忘れられていく食文化の大切さに気がついた」と話し、「手間がかかりますが、発酵の予測できない面白さは、音楽に似ているかもしれない」と楽しんでいる様子だ。商品化に当たり昔ながらの「榊原家の甘酒」の味わいを大事に、もち米をお粥状に炊いて適温に冷やし、麹を入れて半日発酵。さらに低温で保存して熟成させコクと旨みを引き出した。原料の麹は岩出山(大崎市)にある石田こうじ屋さんのもの。
伊達政宗が酒造りのために京都から呼び寄せた職人の技を代々受け継いでいる蔵だ。もち米は岩沼市の米農家・相原さんから。手間暇かけた丁寧な米作りと、楽しく農業を営む姿勢に惹かれたという。質の良さだけでなく、良いものを作り続けようという気持ちの通う人たちにお願いしている。竹代おばあちゃんの名から一文字を付けた「竹圓」。榊原さんは、受け継いだ手作りの味を次の世代にと、今後は地域の子供たちに、甘酒を通して日本の伝統的な食文化を伝えていくつもりだ。