とんでもないことで恩を売る女
テレビの人気ドラマ、北川景子さん主演の「家を売る女」は、わが家でも大人気で毎週楽しみにしています。ドラマの筋書きはちょっと漫画チックで今一つといったところですが、キレのいいセリフ「ゴー!」が、とっても響きがよく、男性社会に不満を抱えている女性群にとっては一服の清涼剤になるのではないでしょうか。彼女の得意はご存知の通り「家を売ること」ですが、その説得力は、かなり論理的かつ合理的で、その上温かいので買い手はコロリと落ちてしまう。世の中には、このような家を売る女のように、「俺の手にかかれば何でも売れる。ダイヤモンドだって石ころだって同じだよ」と、豪語する強者も結構いる。わが家のお母ちゃんは、「笹竈(ささかま)」を売ることにかけては天下一品だが、時にはとんでもないものも売ります。例えば、自分がくつろいでいるときに、"お父さん! あそこからあれをとって!」などという。するとオヤジは、「あそこってどこだ、あれってなんだ!」と問いただす。それはそばで見ているボクだって、にわかには想像つかない。
ところがお母ちゃん。「あれっといったらわかるでしょう」「そこの右にあります」などと、ますます難解な言葉を投げかける。オヤジにしてみれば、テレビの横とかいうように、せめて場所だけでも特定できれば、ある程度は想像つくのでしょうが、長年の癖というものは仕方がないようです。オヤジもしまいには怒り出し、自分でやれよ!半ばふてくされぎみに言い返す。するとお母ちゃん。"お父さんがボケないように鍛えてやってるのよ"なんとも苦しい屁理屈をいう。そうです。お母ちゃんはこんな場面でも、恩を売ろうとしているのです。まさに「私に売れないものはない」というわけです。オヤジの解説によると、「人の行動には、必ずそのような行動を起こしたいインセンティブというものがある。そこで、相手の行動を操作するため、相手に自分が有利になるように行動させるインセンティブを与える方法をとる」というのです。例えば、バレンタインデーにチョコレートを渡すなども、相手の関心を自分に向けてもらうために相手にインセンティブを与える方法です。
オヤジとお母ちゃんのやり取りは、どう見ても漫才の域を出ていないので、そんなえげつない駆け引きはないと思うのですが、にこりともしないで持論をぶちまけるお母ちゃんの横顔がちっと気になります。というのも、「あそこから、あれを」という言い方は、オヤジのボケ防止というよりは、自分のボケを防止する意味からも避けた方がいいと思うからです。もしも、オヤジの健康を気遣うのであれば、時には自分でリスクを作り出すというのも、確かに有効な方法です。でも、お母ちゃんのやり方は、オヤジの思考回路を破壊するだけで、相手が自主的に行動したい気なるように誘導することにはならないように思うのです。もちろん、今日の二人のやりとりは家の中では何でもありなので、別に問題はありませんが、クセになってしまうと思わぬトラブルに巻き込まれのではと少し心配です。でも、大丈夫でしょう。命を落とす前に目を落とすようなドジは決して踏まない人ですからね。もし万一目を落としたとしても、拾いに行ってくるシタタカサがお母ちゃんの売りですから。