宝船浪の音醸造元 有限会社佐々木酒造店
目を引くきれいな紫色は、紫黒米という古代米の色。無農薬栽培のセリで知られる名取市の三浦農園・三浦隆弘さんが、市内の増田小学校の子供たちと育てている米だ。「関わる人も『オール名取』にこだわった紫黒米の甘酒です」と説明するのは、この甘酒を2年前から製造販売する佐々木酒造店専務の佐々木洋さん。酒造りと同じ宮城県産一目ぼれの麹を使い、加える紫黒米は米粉にして色合い、味ともに特徴を生かした甘酒に。
ココアやゴマのような香ばしさも感じられる独特の風味が人気だ。140年の歴史がある佐々木酒造店の甘酒は、昔から地元・閖上の神社の初詣やどんと祭、閖上朝市で振舞われるなど、人気だった。震災前まで蔵の近くにあった高齢者の施設では「食事が食べられなくてもここの甘酒なら喜んで飲む」と重宝されていたという。地元で長く大人にも子どもにも愛されていた健康食品である。
震災で被災した年の冬、ゆりあげ港朝市の関係者から、ひな祭りで振舞う甘酒をつくってほしいと頼まれた。「蔵がないのに...と悩みましたが、なんとか他の蔵の設備を借りて作りました。地域のためという思いでしたが酒屋としても造り繋ぐことが出来た。(甘酒を含む)酒造りは家業を超え『地域の生業』だと再認識しました」と佐々木さん。震災で失ったものも大きかったが、受け継いできたものの真価が見えた。紫黒米の甘酒にも「土地の恵みを生かし、人がつながり生まれる味を次の世代に伝えたい」そんな思いを込めている。