島津麹店
米糀を表す「糀」の字は、麹菌によって米がふわりと華をまとったように見えることから出来た。「上手くできた糀を、『花(華)がかった』というんですよ」と教えてくれたのは明治42年創業島津麹店の事業統括・佐藤憲光さん。同店で2014年から製造販売している「飲む糀 華糀」は、すっと口の中に広がるやわらかな甘味が魅力だ。県産ササニシキ一等米を使った出来立ての「生糀」と米、水だけでつくるが、注目は低温加熱発酵という製法。麹が生み出す酵素が生きたまま飲める甘糀を開発した。高温で火を入れ(殺菌、発酵止め)せず、冷凍管理している。同店は現在、石巻市にある唯一の糀製造所だ。
震災の津波で自宅も工場も倉庫も被災し、当時の経営者が事業をあきらめたとき、娘婿の憲光さんは、6代目に当たる息子の光弘さんとともに引き継ぐことを決意。憲光さんは、「先人が作り上げ繋いできた日本の食文化を絶やすわけにはいかないと思ったし、私自身、麹菌の働きの不思議に魅せられていた」と熱く語る。とはいえ、2人とも糀づくりの職人の技を完全に引き継いでいたわけではない。それでも代々、蔵で使っていた在来菌(麹菌)が奇跡的に手に入ったことが気持ちを奮い立たせた。麹とは面白いもので、その土地や蔵ごとに変化し独自の特徴を持つようになる。オリジナルの麹菌で伝統の味を引き継げる。
県内の大学の専門の先生に相談しながら一から見直した。納得できる糀になるまで3年かかった。憲光さんは「雨上がりの清々しい朝に理想の糀が出来た」と振り返る。時間がかかった原因は、震災復興の工事で町中に粉塵が舞っていたこと。「糀は呼吸をしながら育つ。麹菌がずっと頑張っていたのに、私が環境を整えてあげられていなかった」。父が文献を紐解き、酵母の「なぜ」を追求する一方、光弘さんは、消費者の声を聞き、新商品の開発にも精を出す。糀は栄養の宝庫。「華糀」をスポーツ後の疲労回復、災害時の栄養補給などに役立てたいと各分野の専門家たちと研究を進めている。伊達の甘糀から新たに生まれた「華糀」。進化する効果に期待が高まる。