鳴子温泉 ゆさや
鳴子温泉郷は日本にある11の泉質のうち9種類が湧き出しているという独特の地。ゆさやは鳴子温泉の中心に位置する歴史ある宿だ。元祖うなぎ湯と称するだけあって、内湯の「うなぎ湯」はPH8.9のアルカリ性温泉。とろりとした感触で肌が滑らかになる。日によって、湯の色がエメラルド色から茶色に変化するのも自然の面白さだ。宿の玄関から100mほど歩いた森にある貸し切り露天風呂「茜の湯」は弱アルカリ性でさっぱりした湯。冬の景色を愛でつつゆっくり温まりたい。そして宿隣りの「滝の湯」は酸性の硫黄泉。殺菌、美白効果があり、肌がきれいになる。
3つの泉質が体感できる湯めぐりが楽しい宿だ。ゆさやは、歴史と建物も興味深い。戦国時代、山形・荘内地方の豪族だった遊佐氏は秋田の豪族との戦いに敗れて離散した。一族のうち鳴子に移り住んで湯治宿「遊佐屋」を起こしたのが遊佐勘左衛門であり、後に代々襲名している。1632年には伊達家から湯守りを命ぜられたという。現在の建物は、昭和11年改築の木造二階建て純和風で、国の登録有形文化財となっている。
明治23年に焼失した後新築されたが、焼失前と同様の構造である。泊ってみたいのは文化財を象徴する鶴の間。建物の端から端まで通る12間半(23m)の丸太梁の一部をはじめ、四方柾(4面全てが柾目の希少な高級材)の柱、紫檀や黒檀を使用した床の間、署員の障子を飾る美しい組子細工など、当時の職人技の粋を堪能できる部屋だ。ロビーには、古いレコードプレーヤーが奏でるクラシックやジャズが流れる。古いものを大切にする館主の思いが満ちた宿で、レトロな時間を過ごしたい。