石巻バル Daccha
かつて川港として栄えた石巻は、運河と路地の入り組んだ横丁のまちだった。中心部で庶民に広く知られている横丁だけでも20ほどを数え、それぞれに土地や屋敷の所有者の名字や屋号、あるいは神社仏閣や置屋、石切り場などにちなんだ名がつけられていた。さらには名もなき横丁でさえ、「無知名(むじな)横丁」(貉の字をあてる場合も)、「泥棒横丁」(後にさんずいがとられて尼横丁とも)と親しく呼ばれ、町の重要なバックボーンを形成していた。「本格的に帰石したのは3年前。"ふるさとのために何かしたい"なんてきれいごと言うつもりはありませんでした。
何もない、何もなくなってしまったまちだからこそ、何でもできる。そんな野心こそが、スタート地点です」。東京の人気イタリアン料理店で料理の腕と経営センスを磨いた鈴木さん。彼が石巻で最初の店『Daccha』をオープンしたのは、平成27年3月。名もなき「無知名(むじな)横丁」だった。「それまで、石巻にはバルがなかった。慣れ親しんだ地場の食材で造る本格イタリアンなら、地元の人々にも新鮮味を持って喜んでもらえるはずだ、と思いました」。かくしてその思惑は当たり、店は一気に繁盛店に。
それから3年で和ダイナー『Irasuke』、肉バル『Orai-no』、バーガーショップ『Under Liner』を展開した。スタッフを育て、その個性が活きる業態と場所を吟味し、新たな楽しみをまちに広げる。横丁に、活気という名の明るい灯をともして回る。「横丁は、家賃も安いので思い切ったチャレンジができる。それに、わかりづらい場所にわざわざ来てくれるお客さんこそ、大事にしなくちゃならない。現在は、網地島を開拓するcoco石巻プロジェクトも進行中です。店に、石巻に、わざわざ来てくれるファンをもっと増やしていきたいんです」。