懐かしい富士登山
ムサシの協力のもと、富士山に登るためのトレーニングに励んだのはいつのことだったか。ムサシにつきあってもらわなければ、あんなにハードなトレーニングを毎日続けられることはなかった。なにしろ、伴走しているムサシが先にキブアップして、最後は掛け声だけの応援になったくらいですから、思い出してもぞっとするような厳しいものでした。ムサシにとっては、それほどきつくはなかったはずですが、自分が登山に参加するわけではないので、多少手を抜いていたように見えました。それでも、自分一人ではとても続けることができなかったはずです。
こうして挑んだ富士登山ですが、大自然が相手となると体力勝負だけではなく、別の意味で圧倒され、一気に戦意を喪失してしまいました。そんな苦い思い出ばかりの富士登山でしたが、テレビに映し出される富士山の姿を見ると、なんだか懐かしく感じられるようになりました。当時は、まだ世界遺産に登録されていなかったためか、それとも遠くから見るので見栄えがするのか、やけに親近感を覚えるのです。今までは、登山のことについてあまり多くを語ろうとしなかったため、ムサシも殆ど話題にすることはなかったような気がします。しかし、本当は詳しく聞きたかったようです。
テレビを見ていて、一番高いところは、旧測候所の前で、石碑が立っている所だなどとしゃべりだしたものですから、ムサシも身を乗り出して耳を傾けてくれました。確か友人が写真を撮ってくれたはずなので、急遽探してみたが見つかりませんでした。当時はまだガラ系の携帯電話が普及し始めた頃だったので、山頂からムサシに電話しようと思ってかけてみたが、繋がりませんでした。5合目から一緒に出発したメンバーとはいつしか離ればなれになり、8号目付近では急激な気温低下と吹雪に見舞われるなど散々でした。それが十数年経った今になって、懐かしく思えるのはなぜなのでしょうか。