弥治郎こけし村
白石から蔵王へ向かい、弥治郎集落を過ぎた山あい、緑濃い自然に囲まれた場所に弥治郎こけし村があります。こけしをイメージした工房が、蔵王不忘山を見晴らす敷地に配置されています。弥治郎こけし村について学ぶ、知る、見る、体験する、のすべてができる空間です。ここのところ、こけし女子(略して、こけ女)なる言葉が生まれるほど、静かだが確かなブームがみられる。関連本が何冊も出版され、日本で大切にしたいものとして再認識され、さらにはヨーロッパからも熱い視線が注がれています。本館では、弥治郎の歴史、生活から弥治郎こけし、さらに東北のこけし全体を紹介した展示室、即売コーナーもあります。並んでいるこけしたちのさまざまな面立ち。こけ女ならずとも、その愛くるしさに目を細めてしまいます。
「皆さん、自分の好きな顔を見分けて購入されるんですよ」と話す富塚由香さんは、今年でデビュー3年目を迎える工人です。本館で働き、勤務後や休日にこけし作りを行っているという。ここで体験できる「こけしの絵付け」も彼女が傍で教えてくれるので安心。工人作のこけしもいいが、自分で絵柄を描いたマイこけしは思い出にもなり、愛着もひとしお。本館から庭に出ると、円形の芝生を囲むように「こげす」「ペッケ」「きぼこ」と3軒の工房が並び、その奥にはこけし神社があります。「ペッケ」では、こけし作り33年の星定良さんが弥治郎の特色でもある、ロクロ模様づけを見せてくれます。「目は人前では描けないんだよ。私の場合は、ここが閉まった夜にね」と話す星さんのこけしは、目と眉が特徴的です。
代々、師から受け継がれてきたものだそうです。「きぼこ」」は、新山さんご夫妻の工房、お話を聞くと、なんと奥さんの真由美さんは、元祖・こけ女とも言うべき方で、28年前、仙台の物産展でこけしの実演を見てひかれたのが縁で、ご主人と結婚して自ら職人になったのだそうです。お二人は、声がかかればどこへでも赴く。一昨年12月には、なんとフランスのルーブル美術館で一週間の実演・餌付けを行ってきました。師匠でありライバル、同時に仲間と話す真由美さんは、ご主人のこけしを「ほんとうに弥治郎の子どもの顔。ご主人は「おれのよりきつい顔しているかな」。弥治郎こけしは、ここに生えているみずきから作られる白い木肌の、めんこくて優しい表情は、弥治郎への愛とともに工人たちが支え合いながら、守り継いできたものです。