ムサシの太い声
私が外出から帰ってくると、その気配を感じた時は玄関に待機していて迎えてくれるが、寝込んでいて、私が玄関のドアを開け時に気がついたときは、「うぅワン」と一声叫んでから玄関に飛び出してきました。お母ちゃんが帰ったときは、このずれずれの動作も省略するといって嘆いていたのを思い出します。ムサシにしてみれば、お母ちゃんを決して軽んじていたわけではありません。
私が帰ってきたときに声を出すのは、もちろん、「お帰りなさい」という意味もありますが、「今日も無事だったか」「待ちかねた」という感情が入り乱れて、思わず発してしまうように感じていました。このことは、相棒である私が抱えている問題をいつも自分のこととして心配していたからにほかなりません。私もまた、そうしたムサシの心がわかっているだけに、今日の仕事の出来栄えをいち早くムサシに報告しなければと思っていました。
私には、あの太く大きな声は、相棒の証のように思え、とても心地よく響いたものです。今は、一心同体なので、特にお帰りコールはないのですが、最近あの声が妙に懐かしく感じられるようなりました。というのも、毎日の会話は、お互いにささやきあう程度で済んでいるからです。世間的にいえば、こうした光景をバーチャルな世界とでもいうのでしょうが、私たちにとっては、リアルそのものなのです。太く大きな声さえ加われば!