大久保商店 山の幸直売所(大崎市鳴子温泉)
鬼首を地図で見ると、北は秋田県、西は神室山地を境に山形県と接していることがわかる。間欠泉へ向かう道の手前、三叉路にあるのが「大久保商店 山の幸直売所」。「ここは栗駒山麓で、車で15分もいけば秋田県です」と教えてくれたのは、同商店の2.5代目ですと話す大沼明博さんだ。店の前には熊の毛皮が置かれ、大沼さんが採ってきたばかりのエゾハリタケをはじめ、アミタケ、トンビマイタケ、ムキタケなど、水煮の瓶詰めが所狭しと並び、道端に揺れているコスモスとともに秋の風情一色といった風景だ。
そとから見えないが、店の隅には樹齢500から600年というねずの木のテーブルと椅子がある。これは木挽き職人だったおじいさんが作ったもので、ここで山でとれた料理をいただくことができる。その一つが「ゆきむすび膳」。4ないし5種類の天然きのこが入ったきのこ汁やお煮付けもおいしいが、きのこを地元産の銘柄米「ゆきむすび」と炊き込んだご飯は絶品。これに近くの清流で養殖されたイワナを店内の囲炉裏で炭焼きした塩焼きや、温泉卵など7品がついているのだから大満足である。料理を作るのは大沼さんだが、一緒に元気で働くお母さんのひさ子さんから教わったそうだ。
ここでないとなかなか食べられないだろうと思うのが、熊肉の入った「鬼そば」。その肉のやわらかさに驚く。「母が試行錯誤して編み出した調理法です」と大沼さん。山の生活と共に受け継がれてきた、体に染み込むような、しみじみとした味わいだ。ジビエは猪の時もあるが、専門機関で検査されたものが入ってこなければメニューにはならない。1962年から60年、変わらずここで営む大久保商店さんは、全国のファンからきのこや山菜を送ってほしいと注文がくるそうだ。