里山トレッキング-鈎取野鳥の森、権現森
《鈎取野鳥の森》
198m。野鳥の森とうたうだけあって、おなじみのキジバト、ヤマガラ、オオルリ、センダイムシクイなどのさえずりを聞くことができる。だれが取りつけたのか、入ってすぐの標高200mの緩いピークで見られる「鈎取山」の表示が可愛い。たしかにこのあたりを最高点にして鈎取丘陵は次第に標高を下げていく。原生林とはこういうことを言うのかと思うほど、モミの大木が辺りを占めている。この山稜から北へ続く青葉山丘陵にも、これほどの森林は見当たらない。百万都市である仙台市街地に近いところに、このような重厚な森が残されているという事実を私たちはもっと誇ってよいかもしれない。
《権現森》
権現森という山名は永禄8年(1565年)、山頂に松尾権現が祀られたためにそう呼ばれた。現在は北の313.7m峰に名前が移っているようだ。登山口におよそ5ヵ所、最も登りやすい登山口は活牛寺口で頂上往復となる。木陰に守られた緩やかな森の道は、足に自信がない人でもおすすめのよい道だ。北峰頂上の真下に展望地がある。レンズのない円筒形がネジ留めされ、覗くと気になる山容の山に焦点が合うように固定されている。ここから真っ先に目に入るのは蔵王連峰の大パノラマ。左端の不忘山から刈田岳、熊野岳まで一望できる。手前に目立つ端正なビラミッドの山は、秋保町境野の大倉山(433m)だろう。ほかに向田口、表参道口、葛岡口、国見橋口など。
表参道もよい道だが、踏切のない仙山線を渡らなければならないのでなんとなく気が重いかも。山麓の登山道が通じていないオーバーハングの岸壁(笠岩)の下に岩笠稲荷大明神がひっそりと祀られている。知る人ぞ知る場所で、昭和初期、東北帝大生の岩登り訓練の場となっていたらしい。笠岩の上からは真正面に蕃山と、栗生地区のビッシリトと立ち並ぶ家並に驚くばかり。こぼれ話になるが......権現森では、享保2年(1717年)2月に仙台藩を挙げて御山追い(狩猟)が行われている。百人一組で36組、総勢3600人が従事したあげく「イノシシ5頭、鹿13頭、ウサギ1羽」というのどかな成果だった。家臣たちの士気を保つための軍事演習を兼ねていたようで、藩主のレクリエーションの面もあったのだろう。この記事は「下級武士の田舎暮らし日記」(2019年・支倉清及び支倉紀代美著・築地書館)に載っている。