七ヶ浜町の桜
福島から北へ滑らかに続く仙台湾。そこから一変する海岸線の様相は、松島という日本三景の絶景を生み出した。松島湾に張り出す七ヶ浜町は、その名の通り七つの浜がある町。そしてその辺りは、全国でも屈指の貝塚密集地帯となっている。七ヶ浜にある貝塚のひとつ「大木囲貝塚」は、約6千年前の縄文時代前期から後期までの約2千年間、人々が住み続けた集落跡だという。「大木囲貝塚」は国指定史跡で、縄文時代の集落跡は広々とした公園として整備され、七ヶ浜町を代表する桜の名所の一つとなっている。自然の景観をいかした公園では野山を散策するように桜散歩を楽しむことができる。ここでの魅力はエドヒガンやヤマザクラ、カスミザクラ、オオシマザクラと、日本の野生種4種が見られることだ。貝塚正門から桜に彩られた道をのんびり歩いて行くと、一番奥まったところに姿を現すのが「だいぎ桜」。これはエドヒガンで、豊かな森を背景に立つ、その力強く見事な姿に圧倒される。
足元を見ればヨモギの新芽が大地を覆い、すぐ目の前は縄文の頃には入れ江だった場所だという。「だいぎ桜」前のベンチに座れば原始の森にいるようで、ひとりでに思いが遊び出していく。入口付近まで戻って見つけたのは、5300年前の縄文人の墓地の跡。その脇にはカスミザクラが愛らしい花を咲かせている。近くでは町から委託されたシルバー人材センターの人たちが草刈りをする姿が見られた。「多くの皆さんの力添えがあって、毎年美しい桜を見ることができています」。そう話してくれたのは入口に建つ七ヶ浜歴史資料館の田村正樹学芸員だ。ここでの桜シーズンは1ヵ月近く続く。昨年は、4月1週間目にエドヒガンが見頃を迎え、4月2、3週目にはヤマザクラ、カスミザクラ、オオシマザクラが咲き揃ったという。それに合わせて例年、貝塚と桜の見学会や写真パネル展、ワークショップなどを行う「大木囲貝塚紀行」が開催されるが、このイベントは震災後にスタートしたそうだ。
田村さんは「震災の年が一番美しかった。そう見えたのかもしれませんが」と話す。海に向かって台形に突き出した七ヶ浜をぐるりと廻ってみると、自生する桜の多いこと。天然の花見山にあちらこちらで出会い、桜の岬とも思えてくる。花節神社、さらに松島四大観の一つである多門山の毘沙門堂からは、桜と青い海、岩を打ちつける波の音と、一味違う桜が愉しめる。まさに偉観というにふさわしい景色の中での桜巡りとなる。町の中央の高台にある君ヶ岡公園も桜の名所として知られるところ。ヤマザクラやソメイヨシノの大きな木とともに震災後に植樹された八重のシダレザクラが、ぼんぼりのように可憐な花をつけていた。近くにあった当時の仮設商店街跡地には、2017年に「七ヶ浜みんなの家きずなハウス」が建設された。今も仮設で生活していたこどもたちがよく来るという。今年もまた多くの人が、さまざまな思いを胸に桜の木を見上げることだろう。