あちらの世界もそう気楽ではないのですよ!
お母ちゃんとオヤジは、ボクに時々こんなことを言います。「ムサシはいいね。コロナに感染する心配がないから!」。でも、人間があの世と呼んでいる向こうの世界も、結構気苦労があるらしい。「らしい」というのは、ボクはこの家に入りびたりであるため、籍は確かに「あちらの世界」に移していますが、ご近所づきあいもないので実はあまり実感がないのです。それに、ボクはオヤジと同じようにフリーランスなので、たまにあちらの別邸を訪れても、町内会の案内も来ないくらいだから、県市民税も免除されているため、その点は気楽なものです。しかし、他の皆さんは結構大変らしいですよ! というのは、コロナなどへの感染防止対策費として、多額の税金を徴収されているとのことです。現世では終身雇用制が崩れつつあるとか、同一労働同一賃金などを訴える労働者が多いようですが、こちらは、終身どころか永遠に働き続けなければなりません。もちろん、有給休暇もなく、盆暮れにそちらの世界(あちらの世界から見れば)へ里帰りすることが許されている程度です。「安らかに眠ってください」などと無責任なことを言わないでほしい。
人間の皆さんは、極楽浄土などと持ち上げて、こちらの世界を美化していますが、その割に、なかなかこちらの世界に来たがらないのはなぜでしょう。それは、この世でよいことをたくさんした人にご褒美として天国行の切符が与えられる、と考えられているからだというのが定番の考え方のようです。しかし、できるだけこの世に留まっていたいと思うのが本音ではないでしょうか。だからこそ、コロナウィルスのせいで生活が成り立たなくなることを恐れているわけです。つまるところ、人間にとって、この世が天国であると思っているということですよね。その通りです。何せ、こちらとあちらの世界を行き来しているボクが言うのですから間違いありません。たまに、あちらに帰るのは、部屋の空気を入れ替えるためで、それが済むとすぐにオヤジのところに戻ってきます。ただし、だからといって、あちらの世界が住みにくいと言っているわけではありません。住めば都という考え方はこちらの世界(天国)でも通用する言葉です。それは、ボクがくどくど説明するよりも、こちらの世界に移住した数が圧倒的に多いことを思えば、納得できるでしょう。
ぶち明けた話、誰にとっても、今住んでいるところが天国ということです。不平不満を言い出せばきりがありません。高いところから低いところに水が流れるように、長い年月をかけてそれなりに住みよい環境が整ってくるものですし、自らもその環境に適応するように努力するでしょう。そうした努力を共にした経験をもつ人々が、独特のにおいを感じ、故郷を懐かしく思うのはそうした理由です。ですから、現在、世界中で大流行しているコロナウィルスも、われわれ人間が延々と築き上げてきた住みよい環境を破壊するにっくき奴とばかりに毛嫌いせずに、地球環境の一部とみなし、撃退するのではなく、怒りを鎮めてもらうという姿勢も必要なように思います。すなわち、人間が踏み込んではならない未知の領域に侵入したことに自然環境が激怒し、人間の驕りを戒めているのでないかと考える心のゆとりも必要ではないでしょうか。人間が決めた序列により、動物や植物が虐げられていることに思いを寄せず、目先の利便性を追求し続けてきたため、自然環境が歪んでしまい、コロナウイルスという突然変異を生んでしまったのでは。